2006/10/30 

桜美林学園

学校法人 桜美林大学
情報担当執行役員 情報システム部長
品川昭 氏
日本イーラーニングコンソーシアムのeラーニング活用事例委員会では、 桜美林学園の町田キャンパスを訪問し、導入までのプロセス等についてプロジェクトのリーダである情報システム部長の品川昭様にお話をうかがって参りました。

スタッフ主導による大学 e ラーニング導入事例
桜美林学園「 e ラーニング・イニシアティブ」の軌跡

少子化の影響等から大学経営の厳しさが増す中、各大学では、教育研究サービスの向上や、社会人学生の受け入れなど、様々な大学改革に取組んでいます。
そうした改革の一つの手段として、 e ラーニングを導入する大学がここ数年急増しています。 2007 年に実施されたメディア教育開発センターの『我が国の大学における e ラーニング等の IT を活用した教育に関する調査』によると、大学等の高等教育機関で e ラーニングを導入している割合は 36.3 %を占めるまでになっています。
しかし導入している大学のうち「学内で全体的に取り組んでいる」は 32.3 %で、多くの大学では「一部の学部」あるいは「教師の個人的な取り組み」といった段階に留まっているようです。
今回ご報告する桜美林学園は、昨年より情報システム部門が中心となって全学的な e ラーニングの導入を検討・実施した大学です。昨年「 e ラーニングイニシアティブ」という大学横断プロジェクトを結成し、 Open Source の CMS (コースウェアマネジメントシステム) Moodle を導入、本年4月から本格稼動に移っています。
日本イーラーニングコンソーシアムの e ラーニング活用事例委員会では、桜美林学園の町田キャンパスを訪問し、導入までのプロセス等について上記プロジェクトのリーダである情報システム部長の品川昭様にお話をうかがって参りました。
訪問日: 2006 年 10 月 16 日
場 所:桜美林大学町田キャンパス( http://www.obirin.ac.jp/ )
参加者:活用事例委員会メンバーを中心に 16 名

1. 桜美林学園の概要

桜美林学園は、 1921 年に学園の創設者・清水安三先生が中国北京の朝陽門外に崇貞学園を創設したのが始まりです。終戦後日本に戻り、高等女学校・英文専攻科を設立。その後中学 校、大学、大学院等を次々に設立し現在に至っています。英語教育や学園発祥の地の言語である中国語教育で高い評価を得ています。
また、2007年度よりリベラルアーツ学群を開設するなど、リベラルアーツカレッジとしての魅力ある大学づくりに積極的に挑戦し続けています。さらに大学 院教育においても、老年学や大学アドミニストレーション専攻等、特色のある社会人教育を展開し、学生だけでなく社会人や他の高等教育機関からも注目を集め ています。

2.e ラーニング導入のキッカケ

以前より、科目によっては個々の先生がバラバラの仕組みで e ラーニングやインターネットを活用した授業を展開していたそうです。このままの状態では「様々な仕組みを使わなくてはならないため学生が混乱するのではな いか?」「コンテンツの共有化や再利用を考慮しなくてよいか?」という声があがるようになってきました。そうした問題意識から全学的な e ラーニングの仕組みを検討・導入することになったそうです。

3.e ラーニング・イニシアティブ

桜美林学園での e ラーニング導入の最大の特徴は、「情報システム部門」が中心となって緻密な導入検討プロジェクトを推進してきたことにあります。プロジェクトのコアメン バーは6~7人で、情報システム部、教務系のスタッフ、教員等がバランスよくプロジェクトに参加しています。
こうしたプロジェクトメンバーの構成により、経営面での必要性はもとより、 IT 環境・組織体制・授業方法・教材整備等、様々な角度から入念な検討ができたものと推察しています。
また、プロジェクトのことを「 e ラーニング・イニシアティブ」と呼んでいます。プロジェクト名を単に「 e ラーニング導入プロジェクト」とせず「 e ラーニング・イニシアティブ」とすることで、取り組みの新鮮さをアピールしています。たかがネーミング、されどネーミングです。

4. スコープ(どんな e ラーニングレベルを達成するのか?)

私立大学情報教育協会によると、 e ラーニングの導入には5つのモデルがあるそうです。桜美林学園では最初から一番高いレベルを狙わず上から三番目のレベルである「学習履歴に基づいた個人指 導」の達成を目指しているそうです。無理をせず、かといって安易に走るのではない「ほどほどの線」に当初の目標を定めているところが実際的だと感じまし た。

5. 検討項目

そうしたスコープの達成のため、導入に向けての検討項目は7つの大項目(下記)とそれを細分化した 24 の小項目におよんでいます。それらの項目に関する方針を 2005 年の7月から 12 月にかけて策定し、 06 年の1~3月にかけて試行導入を実施したとのことです。

~7つの検討大項目~
 A .基本
 B. 教材整備
 C .授業方法
 D . LMS の選択
 E. 学内 IT 環境
 F .組織体制
 G .外部との関係

6 .主な方針

ここでは特徴的ないくつかの方針をご紹介させていただきます。

A .方針

いくつかの方針の中で興味深かったのが「コストとプライシング」に関する方針です。

  • コストの柔軟性を確保するため原則として自前の資産は保有しない
  • 不要なコストを回避するため従量に応じた調達ができるようにする

これは、他の大学ではあまり考えない方針かもしれません。自前で持たない、必要な分だけ調達するというシステム投資の考え方は経営的に見ても大変参考になる姿と言えます。
「まずは大きいサーバをドーンと購入し最新の LMS をインストール。。。」
というのがよくある失敗パターンの e ラーニング導入なのですが、桜美林はそうした過ちをしていません。企業の e ラーニング導入でも、ここまで「コストとプライシング」に関するポリシーを明確にしているケースは珍しいのではないかと思います。

B. 教材整備

誰が作るのか、誰が保管するのか、著作権の権利帰属をどうするのか、どういう授業を対象とするのかといった事に関する方針が決められています。ただし著作権関連については法人著作とするのか、教員に帰属させるのか等を議論中だそうです。

C .授業方法

オンデマンド授業に関する考え方について非常に興味深い方針が提示されていました。コンテンツの質(画質や撮 影といった質)について、高品質なコンテンツは外部委託。そうでなければ可能な限り学内で編集するというものです。またカメラに向かっての講義は 15 ~ 20 分ぐらいの長さを最大とするなどの方針が定められています。一律に役割を決めてしまうのでなく、ケースバイケースの柔軟性を残しているところがユニークで 実際的なアプローチといえます。

D . LMS の選定

今回の話の中で一番興味深い内容だったのが、 LMS の選定プロセスです。そのステップは

(1) 18 の国内・海外の LMS を集め、収集できる情報より9つに絞る。
(2)9のベンダーに 79 項目にわたる RFI ( Request for information )を送付
(3)上記の回収ならびにデモプレゼンを依頼
(4)そこから下記の4つの LMS ( CMS )に絞る
    「 moodle 」 「 .Campus 」「 WEB-CT 」 「 BlackBoard 」 
(5)それらを試用し、コスト、納期、操作性の観点から検討

その結果 Moodle に決定したそうです。
「自分達の欲しい機能」を明確にし、それを LMS の選定のための項目に落とし込み、公正で妥当性のある選択プロセスを確立した点が素晴らしいといえます。
また、この LMS の選定あたりから、検討プロジェクトがうまく回り始めたということです。システムを決めないと具体的な活用の姿が見えてこないので、詳細な方針を決めにくかったそうです。

7 .活用状況

現在は、語学をはじめ 20 人の先生がこのシステムを活用した授業を実施しており、コース数で 50 ~ 60 コースぐらいだそうです。学生はユニークユーザー数で 600 名弱。全校生徒の 8 %ぐらいだそうです。 2006 年の 4 月からの活用なので、まだ数は少ないという説明がありましたが、初年度の上期としてはまずまずの活用状況といえます。
なお、この背景には英語系の授業を担当する外国人教員の中に Moodle を使っていた教員がおり、特に語学系ではコンピュータを活用した学習が極めて効果的であるとの認識から、強力な推進力となったと思われます。

8 .まとめ

一緒に視察した方が「完璧な導入だ」と感嘆してましたが、私もそう思いました。ポイントは情報システム部が中心となり、オーソドックスなプロジェクトマネジメントのステップに従ってユーザーニーズを明確にしていったところにあると考えます。
大学の e ラーニングの場合、ややもすると声の大きい教員の意見だけで全てが決まってしまったり、あるいは TOP ダウンで「やれ」と言われ、あまり考えもしないで、ベンダーに言われたままのシステムやサーバーを導入するケースが後を絶ちません。
桜美林学園の導入検討体制およびそのプロセスは、他の大学の e ラーニング導入のまさに見本と言えると考えます。
 

2006/10/30
(レポート:活用事例委員会副委員長 古賀暁彦)

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