2007/02/08 

株式会社オートバックスセブン

eラーニング導入による「自ら学ぶ体質」への革新

 「あなたが知ってるeラーニングの導入企業事例は?」というクイズがあったら、一位になるのは、おそらくオートバックス様の事例ではないでしょうか?
「車は好きだけど勉強苦手な若手社員がどうしたら勉強してくれるか」を考慮し、現役のDJをナレーターに起用し、ビジュアルな表現を多用したエンターティメント性の高い教材は、リリース当時、多くのeラーニング関係者に衝撃を与えました。
 しかし、教材の派手な部分にばかり関心が行ってしまい、作成に至る背景や、実際に作成したものをどう浸透させているのか等の部分はあまり知られていません。
 今回の視察では、こうした運用の面に関しても色々とお話を聞くことができました。
訪問日: 2006 年12 月 18 日
場 所:株式会社カーライフ総合研究所
発表者:ラーニングサポートグループ 石井幸雄様
参加者:活用事例委員会メンバーを中心に 11名

1)概要

 株式会社カーライフ総合研究所は株式会社オートバックスセブンの100%子会社で、フランチャイズ(FC)店に対して教育研修サービスを有償で提供して います。現在オートバックスセブン様のFC店舗数は約500店、およそ13,000名の従業員が働いています。eラーニングを導入したのは1999年。 元々先進的なことが好きな社長が導入を決定し、当時オートバックスに転職したばかりの石井様が急遽eラーニング導入を担当することになったそうです。

2)eラーニング導入目的の明確化

 石井様が最初に手がけたのは「eラーニング導入の目的を明確にする」ことでした。オートバックスセブン様ではeラーニング導入の目的を下記の4点にまとめています。

  1. 教育機会の改善
    eラーニングにより研修会場に通わなくても店舗の学習を可能とし、受講機会を大幅に拡大する。
  2. 教育に関するコストと時間の削減
    店舗で学習することにより、研修会場までの移動時間やコストなどを削減する。
  3. OJT任せの教育内容の改善と基本知識の平準化
    eラーニングによって基本知識学習部分を平準化し、OJTの補完ツールとして使う。
  4. 人から学ぶ体質から自ら学ぶ体質への転換
    eラーニングによって待ちの教育から自ら進んで学ぶ体質への変換する。

3)ブレンディング

 当時はブレンディングという便利な言葉はなかったそうですが、店舗でのeラーニング学習で基礎知識を習得し、集合研修では技能を修得するというブレンディングの考え方で研修体系全体を見直したそうです。
 eラーニングの導入により、集合研修の日数を短縮し各FC店に請求する受講料を安くすることが可能になった、入社1年目はeラーニング中心で基礎教育、 2年目以降に長く働いてくれる目処がたってから集合研修を実施することにより、教育の投資効果を向上することができたということです。
 eラーニング導入に関して、「eラーニングの導入だけを考えてはだめ」というアドバイスをいただきました。全体の研修体系の中で、eラーニングをどう利用するのかが大事ということを改めて認識しました。

4)コンテンツ開発

コンテンツ開発 写真  開発当初のコンテンツのコンセプトで「最低5年間は内容の変更をしない」というお話しを今回聞きました。冒頭で述べたような凝った作りのコンテンツを開発 するには莫大なコストがかかります。コストを回収するためには多くの従業員に受講してもらう必要があります。しかし、すぐに陳腐化してしまうような知識で は、教材開発費の減価償却が終わらないうちに使えないコンテンツになってしまったり、開発後のメンテナンスコストが追加投資として必要となってしまいま す。そこで比較的内容の変化の少ない、オイルの基礎、バッテリーの基礎といった製品知識を習得する上で基礎となる知識を体系化しコースを開発したというこ とです。
 教材は2~3時間で1コース。合計10コースを作成し、全てのコースを修了した人には「カーライフアドバイザー」というグループ内の資格が授与されると のことです。なおeラーニングのコンテンツの場合、集合研修で同じ内容を教えるのに比べると、時間は3分の1で済むとのことです。つまり6時間の集合研修 内容であれば2時間のコースで学習可能だそうです。

5)運用

 どう「自ら学ぶ風土」を醸成していくか、前述のグループ内資格である「カーライフアドバイザー」を普及浸透するために、様々な施策を実施しています。資 格取得者には資格の認定証やバッジ、はたまたカーライフアドバイザの焼印が入った「お菓子」までが記念に授与されるそうです。また、学習推進の雰囲気作り として、受講を促す様々な文書を配信したり、情報を開示し、同僚や他店舗との競争を促すといった地道な努力を継続しています。
 そうした学習者の進捗管理や、eラーニングだけでなくすべての研修の受付から履歴の管理ができるシステムとしてALMS(Autobacs Learning Management System)があります。当初はベンダー製のLMSを色々と物色したものの、自社に必要な機能をもったシステムがなかったため自社開発したそうです。

6)導入効果

導入効果 写真 既に導入から8年が経過しており、学習者にも店舗にも、普通の学習手段としてeラーニングが定着しているという印象を受けました。しかし、ここまで定着するのに3年はかかったということです。
 受講者の学習後の感想としては、「お客様に自信を持って説明できるようになった」「自分の知識の再確認ができた」等があったそうです。また、経営者や店 長の声としても『OJTでは理解できなかった「土台となる知識」を得られた』等良好なアンケート結果となっています。
 現在まで延べ提供コース数は153,000コース、カーライフアドバイザーの数も13,200名にのぼっているとのことです。新規導入のため、集合研修 を実施した場合との比較では、eラーニングの導入によって教育コストはおよそ1/4、教育時間も1/3になったということです。
 一番興味深かったのは「eラーニングの導入によって集合研修の参加者が増加した」というデータです。eラーニングにより集合研修の日数が短くなったこ と、それに伴い受講料が安くなったこと、eラーニングで実施する科目分の余裕ができたため新しい集合研修のメニューを増やすことができたことなどがその要 因とお話になられていました。加えて、一番大きいのはeラーニングを通じて「自ら学ぶ風土」がグループ全体に浸透してきたからではないかと推察していま す。

7)今後

今後のオートバックスセブン様でのeラーニングの方向性として、以下の5点をあげてらっしゃいました。

  1. 他社のeラーニングコンテンツを活用
    自社制作が困難なもの(マネジメント等)は他社のコンテンツを活用したいとのことです。
  2. 知識教育はすべてeラーニングで
    商品知識の教材は、仕入先メーカーが開発してくれるとありがたいという意見がありました。
  3. 衛星通信利用からインターネットへ
    今年の4月1日までにWebに乗せ替える予定とのこと。
  4. 海外進出に対応(多言語化)
    すでに台湾やフランス等に進出しているので、そこでの教育に使いたいとのこと。
  5. 人に関するシステムの統合
    LMSと人事・給与等のシステムとの統合をはかりたいとのこと。

 お話の中で、「基本はOJTにおきたい。次の課題はOJTの再構築」とおっしゃっていたのが印象的でした。ベースの部分 をeラーニングや集合研修で学習し、それを現場で応用できるようになるにはやはりOJTが欠かせません。また石井様は「ノウハウは500の店にある」とい う考えから、現場の声を今後どう吸い上げていくかも次の課題として掲げていました。
 「単にeラーニングのことだけを考えない」 人材育成システムだけでなく、人事システムや学習風土の革新まで視野に入れたオートバックスセブン様での取組みには、大変に感銘を受けました。

(文責:eラーニング活用事例委員会副委員長 古賀暁彦)

DLCメールマガジン購読者募集中

デジタルラーニング・コンソーシアムでは、eラーニングを含むデジタルラーニングに関するイベント、セミナー、技術情報などをメールマガジン(無料)で配信しております。メールアドレスを記入して『登録』ボタンを押してください。