2006/02/16 

三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社

三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)
阿部明子さん
社員が自ら学ぶ環境をつくることは、ナレッジの時代を生きる企業には不可欠な要素。eラーニングはその基盤となる。三菱電機では早くからeラーニングを導 入し、社員が情報処理等の資格試験などに挑む雰囲気を醸成してきた。 三菱電機グループでeラーニングを担当している三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)の 研修課専任の阿部明子さんに、eラーニングを進めるためのポイントや課題を聞いた。

-学習意欲を支えるeラーニング

三菱電機がeラーニングを導入したのは1997年ごろ。IT産業を担うある製作所の幹部が米国の教育事情を視察、 学習システムとしてのeラーニングの必要性を感じ、導入したという。「当時は衛星通信を利用して遠隔地教育を行っていました。 でも、全国に点在する社員にタイムリーに教育を提供できないこと、教育費が削減されつつあった集合教育では旅費や移動時間が
ネックとなって、なかなか参加できないといった事情を抱えていました。そういった支出を抑える意味でも自分の場所で学習できる 環境を実現しようということで導入しました。現在は、集合教育だけでなく、自分で学ぼうという人の意欲を支え、育てるために 活用しています。自分を高めるのは自己責任という時代ですから」と阿部さんは言う。
eラーニングを従来の企業文化、ワークフローの中に溶け込ませるのは大変だ。阿部さんたちは、研修の年度計画に「eラーニングを6割、集合教育を4割」と明確にうたい、それに合わせてコンテンツを増やしていった。「基礎的な技術知識やビジネススキルなどの知識ベースの講座はeラーニングで行い、実践的なものだけを集合教育にという方向性を打ち出しました。ブレンディング教育のはしりのような形態ですね」と言う。

eラーニングの狙いや役割をはっきりとさせることが肝要なようだ。

-トップの理解で決まる

当初は情報処理やベンダーの資格取得関連の7~8講座でスタートしたが、現在は社外資格取得関連の他、社内資格認定を含む技術者教育、営業教育、ビジネススキルなど75講座程度のeラーニングを実施している。

コンテンツは社内独自の内容のものに関しては自社製作を行い、その他は流通しているコンテンツで、その分野で強みのある ベンダーのものがあれば調達している。 最近の市販コンテンツは、多くのコンテンツから使った分だけ課金されるポイント制を 採っているところが増えており、「社員の学習ニーズの変化にも対応できるので、以前のライセンス数を固定した形式より使いやすく なりました。」と阿部さんは言う。

社員のスキルアップはMDISが社内で推進しているe-HRMシステムをコアにして行われており、 全体の受講管理は、e-HRMシステムのコンポーネントであるレッスンマネージャーで行っている。 また、eラーニングの学習管理は、同じくe-HRMシステムのコンポーネントであるeラーニングマネージャー 「DIA-el」というLMSを使用している。

三菱電機グループでは、eラーニング導入以前から、衛星講座や教室での集合講座を実施しており、そういったものに 代わる教育としてeラーニングも集合教育と同じ扱いにし、就業時間内に学習することを認めている。

また情報処理技術者等の社外資格試験などに合格すると一時報奨金を出す制度を設けて、社員の知識、スキルアップを 促す企業文化がある。「最初は、何で就業中にやるんだとか、遊んでいるように見えるといった声もありましたが、2000年ごろ、製作所の トップが経営方針をeラーニングで全社員に見せたのがeラーニングの知名度アップと普及につながりました。トップの姿勢が大きいです」と言う。 「上に立つ経営者が理解し推進していかない限り、eラーニングの導入は進みません。上が取り組むと浸透は早いでしょう」。
現在では、「情報セキュリティ(個人情報保護)」などの全社員に普及・認識させるべきものに関しても、すべてeラーニングで実施している。

-だれでもできる環境を

グループの事業所は全国に広がっている。当初は回線が細くて動画・音声コンテンツが使えないので、主要な事業所にサーバーを 置いたりしたが、現在は1カ所で一括管理し、利用者も増えた。「eラーニングで学習している人は半分くらい」だが、「自主学習に 関しての完全な修了率はまだ2割くらい。メンタリングやチュータなどでフォローしてもなかなか最後までやらせるのが難しいところです。また今はコンテンツ自体の質(内容)が問われる段階にはいってきており、特に市販コンテンツ導入の際にはより多くのコンテンツの内容をよく確認してから導入することも大切です。」 と、学習環境の整備の難しさを言う。

「使い方が分からない」「自分が使っているブラウザ(ネットスケープ)では動かない」「ブラウザのバージョンをあげるには どうしたらいいか」「自分のパソコンにスピーカーが付いていないので音声が聞けない」「Flash PlayerやAcrobat Readerのインストール 方法がわからない」などさまざまな相談、クレームが来る。

運用側では、だれでも学習できる環境をと、「操作法の冊子を配布」「音声だけでなくテキストを入れる」「テキストとして[ 印刷できるようにPDFファイルを付ける」など細かく対応している。「環境整備には苦労しています。『もういやだ』と思わせてはいけない。 『またやりたい、やってみたい』と思ってもらえるようにと考えました。だから『とても分かりやすかった』とか『わざわざ出張に行かずに
学習できるのはよい』といった反応があるとうれしい」と笑う。

さらに、学習者の意欲を高め、学習を継続させるためのサポートが重要だ。「サポート態勢がないとeラーニングの効果を 上げるのは難しい」と言い切る。学習状況を見て月1回くらい、学習進捗のためのフォローメールを送る。 「あまりにたくさんメールを出すと、『うるさい』と無視される。そのあたりのコントロールも難しい」と学習者の 気持ちを考える。コンテンツも動画や音声を使ったり、学習者の興味をそらさないための工夫を凝らす。阿部さんは 「動画で順番に説明して、重要なところは赤で強調する。そういう動きが必要だと思います。単なる”紙芝居”形式では 眠くなってしまいますので・・・」と学習意欲を掻き立てるコツは「動き」にあると指摘する。「音声は、受講環境にも よるので、受講者が選択できる形式にしたほうがよいと思います。」

受講前には、講座の狙いや目標に関して事前にホームページのポータルサイトで案内し、受講申し込みもe-HRMシステムから できるようにしている。職場の上司を巻き込んで実務に活かせる講座を受講させるために、「どういったことを 学びたいのか」を聞く「受講前レポート」を書かせ、受講直後に『受講後アンケート』を実施、受講後3カ月目に学んだことが 職務に役立っているかどうかを『受講後レポート』で上司を含めて確認する。こういった学習しっ放し、自己満足に終わらせない仕組みも整えている。

さらに受講者の求めているニーズ等を把握することも大切で、定期的に全部門へのリエゾン活動をしたり、受講後のアンケートを 取ることも大切で、これも同社ではWebを通じて行っている。その成果か、「受講後アンケートは『ためになった』という答えが多いです。
全体評価ではA~Eの5段階でBからCが多い。 60~70点というところですね」と話す。

-いつでもどこでも

eラーニングを導入してまもなく10年になるが、課題がなくなることはない。「学習から評価までコースの構成を統一したり、操作のボタンの 位置を同じにしたり、学習しやすい形を考えることが課題です。また、SCORMやインストラクショナルデザインも考えて行きたいです」と言う。
ベンダーには、学習状況の管理のしやすいシステムや、SCORM対応のコンテンツなど運用の負担を軽減するものを求め、さらに受講機会を 拡大するためには、モバイル化の必要性も訴える。

「eラーニングは、いつでも、どこでも学習できるのがメリットと言われながら、会社か家でしか学べず、『いつでもどこでも』に なっていない。携帯端末で学べれば、通勤途中でも学べる。そんなメールやゲームのように気軽に出来るものがほしいですね」と話した。

-今後のeラーニングに向けて

「日本国内のeラーニング産業が大きく成長できていない背景として、教育や人材育成に携わるプロフェッショナルな人材が存在していないことが大きな要因と考えられます。米国では、教育心理のMBA相当の人がeラーニングと取り組んでいますが、日本では、単に"eラーニングコンテンツを作る"ことに重きをおいてきた面が強く、教育としての成熟/教育者の育成には至っていません。今後はeラーニングだけでなく、"ラーニング"として教育の全体像をとらえ、その一環としてeラーニングを活用していく、そんな土壌を育てて効果を上げていくことが、よりeラーニング産業の発展につながっていくと思います。」

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