2007/03/26 

熊本大学大学院教授システム学専攻

eラーニングでeラーニングを学ぶ大学院の1年を振り返る

去る2月23日(金)に日本イーラーニングコンソシアム(eLC)の活用事例委員会主催で、「eラーニングで学ぶeラーニング」と題して、熊本大学大学院教授システム学専攻の北村士朗助教授に、同大学院の1年を振り返って色々とお話をいただきました。
当日の参加者は10人弱でしたが、教育子会社の方の参加が多く、自社の社員教育の中で本専攻を活用できないかという関心から参加されていたのが特徴的でした。人数が少なかったことも幸いし、かなり突っ込んだ質問も飛び出すスリリングな2時間でした。
 
開催日: 2007 年2月23日
場 所:日本イーラーニングコンソシアム会議室
発表者:熊本大学大学院教授システム学専攻の北村士朗助教授
参加者:活用事例委員会メンバーを中心に 10名

お話の詳細につきましては、後日eLCのサイトから、当日のパワーポイント資料がダウンロードできる予定ですのでそちらを参照願います。本レポートでは、当日の発表ならびにディスカッションで盛り上がったトピックを抜き出してお伝えします。

1)「ないものは作るしかない」(設立のきっかけ)

「どうしてこの専攻を作ることになったのか?」
「なぜ熊本大学なのか?」
こうした疑問に対し、北村先生は以下のように説明されています。

『熊本大学では平成15年度から、文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」として「IT環境を用いた自立学習支援システム」という活動を行っていた。その中で、「サポート体制の確立」がeラーニング推進上の大きな課題であることに気づいた。
IT面のサポートについては総合情報基盤センター等が担える。しかし教育面でのサポートをする組織やスタッフが当時熊本大学にはなかった。
おそらくインストラクショナルデザイナーと呼ばれる人たちが、それを担ってくれるはずだが、日本にはその人材がいない。いないのなら自分達の大学で育成しよう!というのが本専攻設立のきっかけとなった。』


先日公表された、メディア教育開発センターの「eラーニング等のITを活用した教育に関する実態調査(2006年度版)http://www.nime.ac.jp/reports/001/」でも、IT活用教育を実施する際の課題として
「システムやコンテンツを作成、維持するための人員が不足」(61.2%)
「教員のIT活用教育に関するスキルが不十分」(54.5%)
「eラーニング講義(授業を含む)のシステム開発に関するノウハウが不十分」(43.8%)
等、多くの機関で人員やスキルの不足が課題とされています。さらにIT活用教育を導入している高等教育機関の69.8%が「インストラクショナル・デザイ ンを採り入れていない」と回答しており、単に熊本大学だけでなく、どこの大学でもeラーニングに携わる人員やスキルが不足していることが問題となっている ため、社会のニーズにも合致した専攻の設立と言えるのではないでしょうか。

2)教授システム学の4つのIの内、IMって何を教えるの?

熊本大学では「教授システム学」を「高品質なeラーニングによる教授システムを、開発する上で必要不可欠な関連領域「4つのI」を体系化したもの」と定義しています。
 ID=(Instructional Design)インストラクショナル・デザイン
 IT=(Information Technology)情報通信技術
 IP=(Intellectual Property)知的財産権
 IM=(Instructional Management)マネジメント
上の3つは分かりやすいのですが、IMとは具体的には何を教えるのでしょうか?
この疑問に対し、北村先生は以下のように説明されています。

単なる技術屋でなくマネジメントを心得た人を育てたい。それがIMにこめられた思想である。サスティナブルなeラーニングを目指す上で、利益とコストの話 は欠かせない。よってその中には「お金のマネジメント」も含まれる。また、プロジェクトマネジメント、マーケティング等、様々な視点から「教育」を捉える 視座を養うのがIMのねらうところである。

このテーマについては、北村先生の得意技である「では、参加者に聞いて見ましょう」攻撃が炸裂し、活用事例委員会委員長の下山さんと副委員長の筆者(2人 とも 2006 年度同大学の IM 分野の科目を担当)が急遽、聞き役から回答側になるといったハプニングもありました。

3)eラーニングの専門家なの?教育の専門家なの?

Webサイト等の案内を見ると「eラーニング専門家養成大学院」とありますが、実際の企業内教育や教育事業者の中で働くことを考えると、eラーニングだけ でなく集合研修等、様々な教育手段を活用してトータルな教育システムが設計できないと、単に「eラーニング」のみの専門性が高くても役に立たないのでは? というちょっと厳しいご指摘がありました。
これに対して、北村先生は以下のように回答しています。

ISD (インストラクショナルシステムデザイン)を標榜するのであれば、 e ラーニングだけができる専門家を育てても役には立たない。なので専攻のカリキュラムは e ラーニングという学習手段に限定した IDer を育てるのでなく、トータルな教育全体が設計できる専門家を育てることが大前提となっている。しかし、あまり広げてしまうと、教育学等他の専攻との差別化 ができなくなってしまう。よって e ラーニングを看板として掲げている。なお、院生が出してきた修士論文のテーマには全て「eラーニング」が絡んでいる。

実際、本年度筆者が講師として担当した「教育ビジネス経営論」では、 e ラーニングに特化した内容はせいぜい3割ぐらいでした。教える側としても e ラーニングはあまり意識せず、たまたま学習の流れの中で e ラーニングが出てくるという感じでコンテンツを作成しました。

4)紺屋の白袴回避モデル

北村先生は、本専攻のカリキュラム開発の工夫について、以下のように説明してます。

IDを教える専攻で、IDに基づいてプログラムを設計しなかったら意味がない。そうした観点から、本専攻では相当手間隙をかけてプログラムを開発している。

カリキュラム間の関係(前提科目の設置)や、評価基準の明確化、科目共通のシラバスガイドラインの設置、教育の質保証のための取り組み等、 ID の知見にもとづくプログラム開発でのご苦労について説明いただきました。

詳細につきましては、当日のパワーポイント資料および下記の Web サイト(熊本大学大学院教授システム学専攻)をご覧ください。

熊本大学大学院教授システム学専攻のウェブサイト
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/index.html

当日のプレゼンテーションの模様

(文責:eラーニング活用事例委員会副委員長 古賀暁彦)

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