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第42回 上流から見たeラーニング 24 「ソーシャルラーニングとラーニング3.0のトレンド」後編
2013/05/24
~アバターでリーダーシップ研修に参加するIBM~
前編、中編と二回にわたってIBMがセカンドライフ上で行った研修について、そのいきさつと内容について紹介してきた。今回はLearning 3.0と言われるそうした取り組みの今後について触れてみたい。
今後の課題とチャレンジ
パイロットとしてスタートしたセカンドライフ上での「インクルーシブ・リーダーシップ」は、現在、対面の集合研修、他のオンラインコースと並んで、世界中の社員に提供されている。ソロモン氏とグローブズ氏は今後の課題として、まず「いかに事前のコミュニケーションとオリエンテーションを効果的にするか」をあげている。その理由としては次のようなことがあげられている。
最後に、「セカンドライフの機能はどんどん進化しており、開発しているとあれもやりたいこれもやりたいとつい欲張ってしまいます。実はパイロットの『インクルーシブ・リーダーシップ研修』は、開発時間が予定以上かかってしまい、人件費が予算を大きく上回ってしまいました。欲張ってやり過ぎないように気をつけることも開発側の人間としては大事ですね」というのが、お二人の反省であり、これから開発される方へのアドバイスであった。
「ラーニング3.0」に向かっている他の企業事例
今回は、IBM社のバーチャルワールドクラスを主にご紹介したが、2012年は、IBM社以外にもバーチャルクラスルーム、ゲームをもとにした学習、マルチプレーヤー・シミュレーションを活用してソーシャルラーニングを実施している企業事例が目立って登場した年で、数は多くはないが「ラーニング3.0」に企業が向かい始めていることは確かである。
例えば、「エベレストに登るEverest V2」http://www.youtube.com/watch?v=rFVMd6QiJa0
というチームシミュレーションゲームは、フェデックス社、ハートフォード社、ユニオンパシフィック社等がリーダーシップ研修の中で、オンラインと併用した形で活用されている。このソフトはもともとハーバード大学MBA大学院生用に「リーダーシップとチームダイナミック」を学ぶためにマイケル・ロベルト教授とエドモンドソン教授が開発したもので、ウェストコースト社がソフトウェアの開発に携わった。1996年にエベレスト登山中に5人が亡くなった出来事がり、そこから学んだ内容をもとに作られたもので、現在は企業内教育用に改良されている。
5人ぐらいが1チームとしてエベレストの頂上まで行くのだが、一人一人に任務が課せられており、一人でも欠けたり一人が自分の任務を果たさなかったり協力しなかったりすると、全員が死んでしまう可能性がある。生死をかけたシミュレーションであり、気を抜くことのできない研修のため全員が必死になって最後まで参加している。内容的には決して難しすぎるものでなく、参加しやすいようになっているが、同時にある程度のチャレンジを与え、やさしすぎることもないように作られてある。
また医療機器を提供するメドトロニック社は、エスパイヤ・ラーニング社のチームシミュレーション用ソフトを活用し、次期上級管理者候補のマネージャーを対象としたリーダーシップ研修を実施している。参加者はパーソナルリーダーシップ・スタイルを理解し、クロスファンクショナルなチームワークをシミュレーションを通して体験しながら学んでいく。
エスパイヤ・ラーニング社の社長ハード氏は、「昨年に比べ、オンラインでチームベースのシミュレーションを利用している企業が増え、現在、参加者の25%はオンラインシミュレーションの利用者である」という。また、オンラインシミュレーションに参加している人達を対象にして行ったアンケートによると、「人は、ストラクチャーのある学習環境の中でのインタラクションを好み、オープンエンドの学習ゲームを好まない。大事なのは、仲間どうしでの意味ある話し合いが行われるソーシャルラーニングが存在しているかどうかである」という。
2013年に向けて
クレーグ・ウェイス氏は、2012年9月19日のブログ「2013年のeラーニングでホットなものとは?」 http://elearninfo247.com/2012/09/19/on-fire-in-2013-whats-going-to-be-hot-in-e-learning/)の中で、次ようなことを予測している。
また、グーグル社のインストラクショナル・デザイナーで「まじめなゲーム」の推進者であるマット・ランデス氏は、「ゲームは単なるお遊びではなく、学習に大事な役割を果たすもの」という捉え方が、政府、企業、その他の社会組織全体で認められ始め、「これからのLMSはオプションとして基本的なゲーム機能を取り入れはじめている」ことを指摘している。
Web2.0でいつでもどこでも「人とつながる」ことが容易になり、世界中どこにいてもモバイル機器を使ってソーシャルラーニングができる土壌ができた。しかし、IBMのソロモン氏、グローブズ氏をはじめとした欧米の教育者が何度も口にする「意味ある対話、学習」につなげるには、まだ改善すべき所が多くある。ビジネスの変化とスピードは加速する一方で、益々予測が難しくなっている。このようなビジネス環境の中で、より早く、より多くの社員に、より大きなインパクトのある学習方法、すなわち「人の気持ちをつかみ参加意欲を高め意味ある対話を生み出す学習方法」を望むのは、IBMのようなグローバル企業にとっては当然の期待である。このような期待が欧米の企業をラーニング3.0に向かわせているのではないだろうか。
前編、中編と二回にわたってIBMがセカンドライフ上で行った研修について、そのいきさつと内容について紹介してきた。今回はLearning 3.0と言われるそうした取り組みの今後について触れてみたい。
今後の課題とチャレンジ
パイロットとしてスタートしたセカンドライフ上での「インクルーシブ・リーダーシップ」は、現在、対面の集合研修、他のオンラインコースと並んで、世界中の社員に提供されている。ソロモン氏とグローブズ氏は今後の課題として、まず「いかに事前のコミュニケーションとオリエンテーションを効果的にするか」をあげている。その理由としては次のようなことがあげられている。
- セカンドライフに慣れていない社員がまだ多い
- 世界中の社員を対象にしているので、場所によって、技術的にセカンドライフをフルに使えない環境にいる社員も少なくない
- 社内ではなくモバイル機器を使って受講している社員が多いが、ラップトップのコネクションが悪いことがよくあり、学習できなかった社員は、開発側の責任であると途中で投げ捨てる社員もいた。このようなことのないように、事前にオリエンテーションルームでラップトップ、タブレットの利用のしかたについても説明してあるが、事前準備をせずに参加する社員もいる。
最後に、「セカンドライフの機能はどんどん進化しており、開発しているとあれもやりたいこれもやりたいとつい欲張ってしまいます。実はパイロットの『インクルーシブ・リーダーシップ研修』は、開発時間が予定以上かかってしまい、人件費が予算を大きく上回ってしまいました。欲張ってやり過ぎないように気をつけることも開発側の人間としては大事ですね」というのが、お二人の反省であり、これから開発される方へのアドバイスであった。
「ラーニング3.0」に向かっている他の企業事例
今回は、IBM社のバーチャルワールドクラスを主にご紹介したが、2012年は、IBM社以外にもバーチャルクラスルーム、ゲームをもとにした学習、マルチプレーヤー・シミュレーションを活用してソーシャルラーニングを実施している企業事例が目立って登場した年で、数は多くはないが「ラーニング3.0」に企業が向かい始めていることは確かである。
例えば、「エベレストに登るEverest V2」http://www.youtube.com/watch?v=rFVMd6QiJa0
というチームシミュレーションゲームは、フェデックス社、ハートフォード社、ユニオンパシフィック社等がリーダーシップ研修の中で、オンラインと併用した形で活用されている。このソフトはもともとハーバード大学MBA大学院生用に「リーダーシップとチームダイナミック」を学ぶためにマイケル・ロベルト教授とエドモンドソン教授が開発したもので、ウェストコースト社がソフトウェアの開発に携わった。1996年にエベレスト登山中に5人が亡くなった出来事がり、そこから学んだ内容をもとに作られたもので、現在は企業内教育用に改良されている。
5人ぐらいが1チームとしてエベレストの頂上まで行くのだが、一人一人に任務が課せられており、一人でも欠けたり一人が自分の任務を果たさなかったり協力しなかったりすると、全員が死んでしまう可能性がある。生死をかけたシミュレーションであり、気を抜くことのできない研修のため全員が必死になって最後まで参加している。内容的には決して難しすぎるものでなく、参加しやすいようになっているが、同時にある程度のチャレンジを与え、やさしすぎることもないように作られてある。
また医療機器を提供するメドトロニック社は、エスパイヤ・ラーニング社のチームシミュレーション用ソフトを活用し、次期上級管理者候補のマネージャーを対象としたリーダーシップ研修を実施している。参加者はパーソナルリーダーシップ・スタイルを理解し、クロスファンクショナルなチームワークをシミュレーションを通して体験しながら学んでいく。
エスパイヤ・ラーニング社の社長ハード氏は、「昨年に比べ、オンラインでチームベースのシミュレーションを利用している企業が増え、現在、参加者の25%はオンラインシミュレーションの利用者である」という。また、オンラインシミュレーションに参加している人達を対象にして行ったアンケートによると、「人は、ストラクチャーのある学習環境の中でのインタラクションを好み、オープンエンドの学習ゲームを好まない。大事なのは、仲間どうしでの意味ある話し合いが行われるソーシャルラーニングが存在しているかどうかである」という。
2013年に向けて
クレーグ・ウェイス氏は、2012年9月19日のブログ「2013年のeラーニングでホットなものとは?」 http://elearninfo247.com/2012/09/19/on-fire-in-2013-whats-going-to-be-hot-in-e-learning/)の中で、次ようなことを予測している。
- 音声機能の進化のおかげで、キャラクターの会話に合わせてアバターの口が動く製品が出る
- タブレットを使ったmラーニングが増える
- スマートフォーンよりタブレットを使ったコースが急増する。
- iSpringのコンバータは HTML5のコンテンツを iPad用に作ることができ、iSpring Suite を使うと 3D ブックを作成できる。.
- パーソナライゼーションが可能な製品が増える
- 例えば、Xbox 360やセカンドライフで自分なりの姿格好を作ることができる。YouTube channelで自分の好きな音楽、ビデオを選択できる。モバイル機で自分の好きなアプリケーションを選択できる。
- LMSにおいても同様で、ブロック/ウィジェット をon/offにできたり、自分の好きな言語に切り替えることができたり、自分の好みのルックにしたり好きなアプリケーションを追加できる。このようなことができるLMSはまだ少ない。
- ムービーが急増する
- ビデオクリップとか YouTubeクリップという小さなものではない、フルタイムのムービーの活用が増える。ビデオストリーミングが技術的にもコスト的にもより可能になり、ムービーの 管理、 編集、収録が増える。
- 対話型のシミュレーションが増える
- シミュレーションの中でムービーがより使われる
- eブックが増える
- SaaSがより浸透し、オーサリングツールの会社も今まで以上にクラウドに入っていく
また、グーグル社のインストラクショナル・デザイナーで「まじめなゲーム」の推進者であるマット・ランデス氏は、「ゲームは単なるお遊びではなく、学習に大事な役割を果たすもの」という捉え方が、政府、企業、その他の社会組織全体で認められ始め、「これからのLMSはオプションとして基本的なゲーム機能を取り入れはじめている」ことを指摘している。
Web2.0でいつでもどこでも「人とつながる」ことが容易になり、世界中どこにいてもモバイル機器を使ってソーシャルラーニングができる土壌ができた。しかし、IBMのソロモン氏、グローブズ氏をはじめとした欧米の教育者が何度も口にする「意味ある対話、学習」につなげるには、まだ改善すべき所が多くある。ビジネスの変化とスピードは加速する一方で、益々予測が難しくなっている。このようなビジネス環境の中で、より早く、より多くの社員に、より大きなインパクトのある学習方法、すなわち「人の気持ちをつかみ参加意欲を高め意味ある対話を生み出す学習方法」を望むのは、IBMのようなグローバル企業にとっては当然の期待である。このような期待が欧米の企業をラーニング3.0に向かわせているのではないだろうか。
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