第41回 上流から見たeラーニング 23 「ソーシャルラーニングとラーニング3.0のトレンド」中編

2013/03/15

アバターでリーダーシップ研修に参加するIBM~ 中編」
 
 さて前回はIBMで自社のダイバーシティ研修にセカンドライフを用いるいきさつについて紹介した。今回はそこで実際に行われた内容について紹介したい。集合研修をセカンドライフで実施する研修とはどのようなものなのであろうか?従来の対面で行う「ダイバーシティー」の研修とどのように違うのであろうか?読者の皆様の中で「ダイバーシティー」の集合研修を経験されたことがある方は、ぜひ対面研修のときの経験を思い浮かべながら、以下のバーチャルワールドでの研修と比較していただくと興味深いのではと思う。
 
オリエンテーションルーム
IBMの「インクルーシブ・リーダーシップ研修」は、約25名ぐらいを対象とし、2時間かけて行われる。受講者は、対面の集合研修と同じように、まず、全員がオリエンテーションルームに集まって、ファシリテータから研修についての概要を聞く。この時点で、ファシリテータは、バーチャルクラスに参加するのに知っておかなければならないツールの使い方について、デモをしながら説明し、必ず受講者が練習をする時間を与える。受講者は、事前に自分の好きなコンピュータ、タブレットを使って、アバターの選び方、使い方、移動のしかた、その他を練習し、バーチャルクラスに参加するための事前準備を済ませていることになってはいるが、必ずオリエンテーションでは、皆で練習をする時間を取っている。
ローラー・ソロモン氏は、このような先端的なテクノロジーを使った研修を行うときは、「安心して学習できる」という心理的な学習環境が大切であることを強調している。受講者との対話を欠かさずに進めていき、「安心していつでも何でも質問できる」雰囲気つくりをするのが大事である。特にダイバーシティーのようなコンプライアンス関係の研修には、参加したくない社員、セカンドライフで研修を受けたくない社員等も混じっている。受講者によっては、その国、場所によって学習環境が異なるので、すべての機能を使えない場合があり、電話回線を使っての対話もできるようにしてある。
 受講者たちが自分のアバターを決めると、受講者(アバター)が椅子に座って落ち着いたところで、受講者同士が、自己紹介をする。
 
ツールの紹介と練習
次に、全員が立ち、オリエンテーションルームの中を歩き回る練習をする。前進したり、後ろを振り返ったり、壁に向かって歩いたりする。オリエンテーションルームは出入口がひとつあり360度の円筒のような建物になっており、壁には10ぐらいスクリーンがある。各スクリーンにはセカンドライフを使う上でのツールの使い方と練習用課題があり、受講者は自由にそれぞれのスクリーンを見てまわり、スクリーンのボタンを押したりして練習できる。






ツールの例:
  • オリエンテーション用ツール
  • バリアー(障害物)
  • グループ課題ツール
  • ラーニングトラックツール
  • 「Track your Time」という時間管理ツール
  • グローバルマップ
  • ダイバーシティーの4つのステージツール
 
例えば、「どのようにして自分の周りを見るか」というスクリーンには、まず、そのやり方が簡潔に絵を使って説明してあり、練習のしかたが書かれてある。ほかに「テキストチャットのやり方」というスクリーンもある。ファシリテータは、各自に自由に練習させたり、クラス全員で同じスクリーンを見ながら練習させるということもできる。この時点で、受講者は必要があればヘルプデスクの回線を使って電話で話すこともできる。
 








グローバルマップツール:
 次に、受講者は全員が「グローバル・マップ」をクリックする。オリエンテーションルームの床全体に世界地図が出てきて、受講者は自分の出身地のある国の上に移動する。こうすることで、いかに国の異なる人々が同じところに集まっているのかがより実感として感じられるからである。
 









ダイバーシティーの4つのステージツール:
ファシリテータは、「ブロックパワー」ツールという4つのブロックを積み重ねた柱を全員が見えるようにオリエンテーションルームの中心に出す。このブロックは、ダイバーシティーの4つのステージを理解するための学習モジュールが示されており、今自分たちはどのモジュールを行っていて、次はどのモジュールにいくのかということがわかる。








その後、床に4つのステージが表れ、それぞれについての名前と説明が書かれている。受講者は自分と関係のあるステージを探して、その上に立つ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
バリアー(障害物)ツール:
各個人がインクルーシブリーダーシップを発揮しようとしても、何か障害物があってなかなかできない可能性がある。この障害物を「バリアー」と呼び、大きなレンガの壁をそれにたとえている。壁の向こう側に行こうとしている人がいけないようになっている。この大きな壁であるバリアを乗り越えるには、まず、バリアとなりうる個々の問題を把握し、そのことについてリーダーが理解し、取り組んで行くことが大事であることを学ぶためのツールである。
 







ファシリテータは、説明の後、「このバリアーを壊しましょう」という声を出すと、全員がこのレンガの壁を一緒にとりこわすという作業をする。ソロモン氏によるとこの作業は受講者の間ではなかなか好評だという。それは、このときの「爽快さ」が心地よい体験となったからのようである。セカンドライフだからこそできる面白い体験である。
 







ブレークアウトルーム(分科会)
ツールの紹介が終わると、4、5人ずつが一つのグループとして5つのブレークアウトルームに分かれる。受講者は、一つのセッションだけに参加でき、ファシリテータがグループ分けしたネームリストを見て自分のルームに移動する。

IBMのセカンドライフを使ったバーチャルワールドは、海上に6つの円筒形の建物(上記の図では5つしかないが、実際は6つ)が浮かんでいるようなデザインになっており、一番大きくて中心になるのがオリエンテーションルームで、そこから放射線状に5つのブリッジがあってブレークアウトルームにつながっている。建物の壁はすべて透明にし、床もできるだけシンプルなデザインにしている。オリエンテーションルームからブレークアウトルームへの移動の仕方としては、ブリッジを歩いて渡って移動する場合もあるし、テレポートで移動したり、空を飛んで移動することもできる。特に空を飛んで移動するというのは、上から下を見ながら鳥になった気分でとても気持ちがいいという感想が多い。これもセカンドライフだからこそできる体験である。
グループセッションは25分与えられており、これが終わるとオリエンテーションルームに集まり、全体のディブリーフィングセッションで各グループは自分たちが話し合ったことらについて共有しあうことになっている。
 
5つのブレークアウトルームのトピック:
A. 全員男性ばかりのチームを管理する女性リーダー(性による差別問題)
B. その仕事に一番適切な人
C. 介護が必要な老人を抱えた社員
D. グローバルな仕事を担当するゲイのコンサルタント
E. 車椅子を使う営業担当者
 
各ブレークアウトルームの入り口には、大きなボードがあって、そこには受講者がこれから25分の間でやるべき活動の説明と指示が書かれてある。学習活動は、各ブレークアウトルームによって異なる。
ここではそのうちの2つについて見てみよう。
 









Aルーム:全員男性ばかりのチームを管理する女性リーダー
 
受講者は、ボードに書かれてある指示を読むと、まずコンピュータの音声を調整し録音されたシミュレーション会話が聞こえるようにしてから部屋の中に入る。
 
 
 






 
部屋に入ると、部屋の片隅には、テーブルが置かれてあり、女性の上司が立っていて、男性の部下たちがテーブルのまわりに座っている。受講者は、その周りに集まる。このとき、受講者のうちの一人は、シミュレーションの進行ボタンを押す役割になり、女性上司と男性の部下の会話を止めたり進めたりする。全部でシナリオは3つあり、各シナリオをクリックすると、一人の男性社員が話しをし、それに対して、女性の上司が心の中で思っている声が聞こえてくる。受講者の一人(ボランティア)が男性の社員となってローカルチャットを使ってロールプレーする。この様子をみながら、皆が話し合う。





3つのシミュレーションが終わると、受講者たちは、暖炉とソファのあるラウンジルームに移動する。そこには、ディブリーフィング・ボード(向かって左)とホワイトボード(向かって右)がある。ディブリーフィング・ボードには質問や課題が書かれてあり、グループはそれについて話し合ったり、自分の体験を共有したりする。このときにでてきたコメントや質問はホワイトボードに書き込む。それは、あとでクラス全体セッションで共有できるようになっている。
 
 






Dルーム:グローバルな仕事を担当するゲイのコンサルタント
 
 ウィルというゲイの社員との日常の対話をトピックにしたものであるが、開発者側はこのトピック自体が文化が異なる世界中にいる社員にすんなりと受け入れてもらえるのかどうか正直疑問に思いながら紹介したそうである。しかし、実際に参加した社員は、自然にオープンに話し合え、普段なんでもない質問やコメントが、ゲイの社員の立場にたつとどのようなものなのかがよく理解できたという。部屋はAルームと同様に円筒のようなつくりになっていて、部屋の中心部には、円を4等分にしたような形で壁で区切られた4つのセクションがあり、3つのセクションにロールプレー用のシナリオが用意されてある。
 
 


 
最初のセクションに行くと、アナという女性が立っていてシナリオのボードが横にある。
シナリオ:ウィルが部屋に入るとアナが「週末はどうでしたか?」という日常何でもないような質問をしてきた。ウィルは、「自分のパートナーと10周年を記念してお祝いをした楽しい週末だった」と心の中では思っているが、どこまでアナに話したらいいのかがわからない。
受講者は、このシナリオを読んでから、アナの質問にたいしてウィルになって返事をしなければならない。アナをクリックすると、アナの個人的な情報やウィルとの職場での関係についての情報が出てくるので、それを読んでから、受講者はホワイトボードに自分の返事を書き込み、グループで話し合う。2つ目3つ目のセクションに移っていくと、シナリオの中にある質問の内容が少しずつ難しくなっている。3つ目が終えたら、Aルームと同様に、ディブリーフィングボードとホワイトボードのあるラウンジに移ってソファに座り、グループでディスカッションし、質問やコメントはホワイトボードに書き込む。
このようにして、それぞれのグループは、30分ぐらいブレークアウトルームでディスカッションをしたあと、オリエンテーションルームに移動し、全体クラスでのディブリーフィングに参加する。そこでは、各グループが自分たちの学習活動とここで学んだこと、気づいたことをレポートする。レポートの後、全体で自分の個人体験を共有したり追加のコメントを出し合ったりし、その結果は、ファシリテータがキーラーニングポイントとしてまとめ、研修の目的と結びつけて終了する。
 
以上がセカンドライフ上で実施された「インクルーシブ・リーダーシップ」の概要である。実際の対面研修と比べてどのようにお感じになっただろうか?
次回はIBMが考える本コースの課題に触れ、ラーニング3.0の今後についてまとめてみるのでご期待頂きたい。
 

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