第29回 上流から見たeラーニング 11 ビジネスの成長と社員の成長につながる「ソーシャル・ラーニング」前篇

2010/02/23

Twitterはビジネスにつながるのか?前編

アメリカにおいて経済不況の波でまずカットされるのは、教育への予算である。学校も企業も関係なく、2009年は教育予算カットが厳しかった年である。このような状況下で、よく耳にしたのがSNS、ブログ、Wikis、Twitter等の「ソーシャル・メディア」を利用した「ソーシャル・ラーニング」を進めているという企業HRの話である。(2008年のアメリカの企業を対象としたインダストリーレポートによるとコラボレーションのできるソーシャル・メディアを企業内に導入している大手企業は87%)それは、社員のやる気が倍増し、かつ0に近い投資で売り上げを上昇しROIを500%にすることができたという夢のような話が事例としてぽつぽつと出始めたからである。
 
10代の若者のお遊びの道具に過ぎないと耳を塞いでいた経営層、教育トップのCLO
(Chief Learning Officer)達も、企業の大小関係なく「ブログ」や「Twitter」をビジネスに活用し成功している事例を聞いたり、オバマ大統領も(自らではないということだが)使っているという話を聞き、耳を傾け始めたようである。
 
前回は、このような経済不況の中で関心が深まっている「ソーシャル・メディア」を活用した「ソーシャル・ラーニング」を織り込んだ革新的なビジネス・モデルで話題をよんでいる企業をご紹介したが、今回は、「ソーシャル・ラーニング」がビジネスと社員の成長にどう関係するのかについてまとめてみた。
 

 1.人脈ネットと人間関係
Twitterはビジネスにつながるのか?」
 
最近は、テレビの報道だけではなく企業内教育関係のニュースを読んでいても、ともかくTwitterについての情報が多い。それだけ企業が関心を抱いているということである。しかし、教育トップのCLOにとって関心があるのは「Twitterはビジネスにつながるのか?」、次に「Twitterはラーニングになるのか?」である。
 
小鳥が「チュッ、チュッ」とさえずることを英語でTwit といい、さえずることができる場がTwitter である。スターが140字以内でTwitとすると、そのスターのさえずりに、ファン(Followersと呼ばれている)がTwitするという一見すると何でもないばかげたような行動であるが、無料で使えるので世界中のファンが、あれよあれよと増えていくという現象が起こっている。「スターの日常をちょこちょこと途切れることなく報道するような、あんな意味無いことが、企業の学習とどうつながるの?」と企業内教育界では、Twitterに対してしかめっ面をする人はまだ多い。にもかかわらず、企業のTwitter利用は増加の一途である。以下にビジネスにつなげて成果をあげている企業を2社ご紹介する。
 
 
サウスウェスト航空:大事なメッセージを伝え、良好な人間関係を築く
 
カスタマーの生の声を一番早く聞ける
2009年8月現在で、同社のTwitter書き込み者は約50万人で、その数は毎日6000人増えている。同社は、もともと特典航空券セールの案内用に利用しようとしたのだが、カスタマーが自分たちの思いを訴える方法としても利用し始めた。多くのカスタマーからの「速報がほしい、特にTwitterで」という要望は、同社の利用方法を大きく変え、顧客満足度に大きく貢献するトリガーとなった。
 
今では、特典航空券セールの案内のほかに、eメール、電話のテキスト・メッセージ、その他の方法では「速く」伝わりにくい ニュースを流すのに利用している。例えば、ハリケーン「アイク」が来たとき、同社が使っている5つの都市 の空港が閉鎖されたとき、カスタマーにどのような乗り換えをして目的地に着けるのかを速報で知らせることができた。あるいは、緊急着陸を要したときに、最速で1分毎に状況を知らせることができた。また、同社が特典セールを出したときウェブサイトがパンク状態になるということがあったが、そのときにTwitterを使ってカスタマーに状況説明をし安心してもらったということもあった。今は50万人を対象に迅速、効率的に事実を伝えることができるが、これが無かったときは、情報は口伝えで流れ、流れている間に事実が無くなるということがあった。社内では、使用に際して何をいつ書き込むかについて案内を出し、ユーザーにとって関係があり意味ある内容を書き込む。
 
Twitterはメッセージを今日出して、明日チェックするというような使い方には向いていない。毎日、継続的にTwitterで何が起こっているのかを監視し続けないと、その効用はわからない。同社には、朝の6時から夜10時までの間、ずっとサイトを監視しているTwitter窓口の役割を果たしている社員がいる。不満をぶつけたいカスタマーにとって、Twitterは自分の不満を手軽に共有できるもってこいの方法であるということは、企業側にとっては、カスタマーの生の声を一番早く聞ける方法だからである。 
 
上からコントロールはできない
社内では自分達の職場生活についてのおしゃべりの場としてソーシャルメディアの使用を奨励している。ここでは、会社を代表して話しているのではなく、個人として自由に話すことが奨励されており、質問、不満のある社員に早く対応できる方法として使っている。「 秘密情報、プライバシーを侵害するような情報を書き込むべからずは、常識で判断できるはず。普通は、社員はちゃんとした常識をもって正しい行動を取ろうとしていることを、多くの企業は忘れているのではないだろうか?」というのが情報のコントロールに対する同社の姿勢である。
 
社員のいうことを管理することはできない、ましてやカスタマーが何を言うのかを 管理するのは無理である。Twitterは、「透明、正直、迅速」なコミュニケーションには最適なツールである。人が言いたいことをいかにコントロールするかという無駄な時間にエネルギーを注ぐより、 Twitterを使って「個性的、面白くて親しみやすい」という同社の企業文化につなげるほうが、ずっと効果的な企業PRになると捉えている。
 
 
Dell社:顧客関係の絆を倍に深め、顧客からのクレームを激減
 
Dell 社でもTwitterは顧客向上に大きく貢献したと発表している。同社では、3種類の方法で利用している。まず、「問題を抱えているカスタマーを見つけ出し、連絡し、問題を解決するためのチャンネル」として、次に、「ブログやその他の同社に関するニュースをヘッドラインで提供するRSSフィード」として、そして最後は、「安価に在庫処分する方法」として利用している。
 
顧客関係の向上
社内には自分の仕事に合わせてTwitterを使っている社員が200人いるが、顕著に顧客関係が向上していると口をそろえて言う。今までは、データセンターの問題について、違うところにいる2人のカスタマーが会話をしていたら、それを聞くことはできなかった。その会話に入ることもできなかったので、何かをしてあげたくてもしようがなかった。しかし、今は、カスタマーの問題に対して、データセンターのプロはオンラインで30分から1時間で対応でき、質問にこたえたり、問題を解決したり、情報を提供したり、どんなカスタマーのニーズにもWebで対応できるようになったからである。
 
社員の一人は、「個人的なレベルまでの会話をすることができるのがいいですね。プロフィールがあるので、相手も自分はどんな人かがわかるようになってます。社員や企業の本当の顔をのせているようなもので、どんな人かを知るのにとてもいいですね。始めて旧友に会うような感じ、自分の子供のことからデータセンターのことまで、いろいろとおしゃべりしています。既存のカスタマーだけでなく、将来のカスタマーともおしゃべりしているようなものです」と、電話とは違うTwitterならではの効用を話している。
 
Twitterに書き込んでくる人達は、ほとんどは問題をかかえているカスタマーだが、人によっては競合社であるHPのシステムを検討中だと書き込んでいる場合もある。どちらの場合にしても、気づいたら即その人達に接触できることがTwitterの良さである。 
 
ビジネス動向と課題の最先端をリード
このようにカスタマーの生の声が聞け顧客関係向上に役立つTwitterに前向きな同社の経営層トップは、経営上のもう一つの効用を見出している。それは、産業動向の最新情報を得るのにも役立つということである。なぜなら、ソーシャル・ウェブは新しい物好きユーザーの集まりでもあるので、動向や課題の最先端をリードできるいい機会となるからである。 
 
Twitterの成果に関しては、これといった測定法はないが、「2006年に導入してから、企業に対するネガティブな意見が30%減った」、「製品に関する問題について、みつけだし解決するまでに従来は8週間近くかかっていた時間を今までより3週間短縮することができたケースが2回あった」、「2007年から@DellOutletで特別催し物を提供して以来300万ドルの収益を出した」という。
 
コントロールよりカスタマーとの楽しいつながり
同社においてもサウスウェスト航空と同様、適切な使い方については話をするが、特にTwitter使用上の管理、規制はないという。「カスタマーと企業のプライバシーを守る」という前からのルールを使っているだけである。
 
同社のTwitter担当者は、「多くの企業はTwitterをビジネス業務だけに何とか使おうとし、それにこだわり過ぎて、結局Twitterの価値がわからずじまいで終わってしまっているように思う」と、単なるツールに過ぎないTwitterを、多くの企業は長く考えすぎ、必要以上に問題視していることを指摘していた。「カスタマーとの対話を『楽しい方法でする』ことによって、信頼関係を深めるのに役立っているでいいのではないだろうか?」と、もっと気楽にその良さを生かすことを薦めている。
 
同社には「本当に働きがいのある素晴らしい会社」という企業文化があり、カスタマー・サービスと強く関連してる。企業文化のメッセージを本当にカスタマーに伝えることは難しい、しかし「Twitterを使うことによって個人レベルでカスタマーともつながるようになり、説明をしなくてもこの企業文化が伝わっていることを感じることがよくある」と社員は、Twitterを使ってのカスタマーとのつながりがブランド向上、カスタマー・ロイヤルティーに貢献していることを指摘している。
 
しかし、Twitterは、すべてのビジネスに向いているわけではない。Twitterによって問題あるカスタマーをいち早く見つけることができるということは、同時に迅速に対応できるような体制にしなければならないということでもある。組織のスピード力に大きな課題を投げかけていることも事実である。
 
今回の前編ではTwitterを使った新しい企業の取り組み事例を紹介したが、次回の後編ではより一般的なソーシャルラーニングの取り組み事例と、そのメリットや課題について考察する。
 

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