第23回 上流から見たeラーニング 5 「新しい世代 ”ジェネレーションY” を生かすには? 前編」

2008/11/13

「今までのやり方で育てることができない」、「若い者はすぐにやめてしまう」、「若いものは根気がない」、「若いものは、一つのことに集中できない」、「隣に座っているのにメールで連絡してくる」、「面と向かっての話し方を知らない」、「我々が去ってからの会社の将来が心配」は、日本の社内でよくきく40代後半以上の上司が若い部下に対していだいている不満、不安の声である。しかし、同時に、「テクノロジーのことはよく知っている」、「情報収集が速くて巧み」と賞賛の声も高い。
若い社員に対する嘆きの声はアメリカの職場においても聞かれ、「ジェネレーションYは今までの労働層の中で、最も自己顕示欲が強く、無責任で、未熟な層」( Solomon, Rachel. ウワールストリート・ジャーナル誌2008年3月15日のオンライン版Running a Business: Learning to Manage Millennials)と手厳しい表現をしている、と同時に「テクノロジーを使って効率的に仕事をこなす層」と評価している。
現実として団塊世代の退陣とともに、価値観、仕事のしかたの異なる新しい世代がどんどんと職場に入ってきて、好むと好まないとにかかわらず今までの職場文化を揺さぶり始めている。アメリカにおける仕事のしかた、学習のしかたは、毎年増加する「ジェネレーションY」という新しい世代の波に押されて変貌しつつある。
今回のレポートでは、アメリカの職場における「新しい世代の波」とそれに対する「eラーニング」の動きについて調べてみた。

1.ジェネレーションYの波
アメリカの職場は、ベービーブーマーと呼ばれる団塊世代がどんどんと退陣し、入れ替わりにジェネレーションYと呼ばれる新しい世代が次々と登場し、4つの世代が同じ職場で働くという「世代のルツボ化」現象がおきている。アメリカでは、日本の企業のように停年退職制度がないので、“サイレントジェネレーション” と呼ばれるベービーブーマの前の世代がまだ現役で働いている職場もかなりあるので、アメリカの職場歴史上始めて、4つの世代が同じ職場で働くという現象がおきているというわけである。

ここで、アメリカの職場における4つの世代についてまとめてご紹介する。

アメリカの労働市場における世代別特徴
(参考資料:Bersin & Associates社「高成長企業におけるeラーニングのビジネスへの貢献」、Solomon, Rachel.Wall Street Journal 2008年3月15日のオンライン版「Running a Business: Learning to Manage Millennials」)

世代名

価値観、考え方等

行動様式、仕事への姿勢、リーダーシップ等

サイレント・ジェネレーション
( 1925-1945生)

上下関係、組織に帰属、経済的な報酬及び生活の保障等を重視

他の人を尊重、理論的、権威や地位を重要視、公平で一貫性のあるリーダーシップを好む

ベービー・ブーマー
( 1946-1964年生)

理想主義的、競争心が強い、達成欲が強い

親しみやすい、人間関係を尊重、民主主義、平等を重要視

ジェネレーションX
(1965-1980年生)

自律的、規則を変えようとする傾向が強い、グループやコミュニティーを重視、情報やデータ量が豊富

体験型、結果を重視、適応性がある

ジェネレーションY
(1980-2000年生)

自信がある、忍耐力に欠ける、社交を重んじる、家族(両親)を大事、仕事よりライフスタイルを重視、自己顕示が強い

目的重視、型にはめられた仕事の方法を嫌う、
企業への忠誠心に欠ける、速い昇進を期待する傾向が強い、インターネットのない時代を知らない世代でテクノロジーを使ってマルチタスクを器用にこなせる

 

将来のアメリカの労働市場を見てみると、この先5年の間に、ジェネレーションYの人口は1千万人(Cunningham, Sharon. 2007年3月 Managing The Millennials. Best's Review. Oldwick. Vol. 107, Iss. 11; pg. 67, 1 pgs)、ジェネレーションYの総人口が労働市場に入ってくると、8千万人近くになるという( Solomon, Rachel. ウワールストリート・ジャーナル誌2008年3月15日のオンライン版Running a Business: Learning to Manage Millennials)。
この事実を見据えて、多くの企業がジェネレーションYについての調査を進め、「YはXとは異なった仕事への姿勢、習慣があること」に気づき始めている。
Web誌の RedFusion Mediaは、「人材開発部の現在の課題」(Jon Burgess著)の中で、次のようにまとめている。

企業への忠誠心
若い社員は、同じ会社に長続きしない。他の会社がよりよい給与、地位を提供すると、今までの会社のことを気に入っていたとしても、新しい会社に移る傾向がある。最近のトレンドとして20代の若者のほとんどは18ヶ月ごとに仕事を移っている。一つの理由としては、若者の多くは大学卒業までの大きな学生ローンを抱えており、その支払いのためにより給与の高い会社に移ることが考えられる。人材コンサルタント会社Kendall Tarranet Worldwide社の最近の調査によると、新卒のジェネレーションYは、仕事よりライフスタイルを重んじる傾向が強いので、企業は柔軟性のある採用方法、社員保留方法を取り入れる必要性があると強調している。

昇進への期待
若い社員は他の世代の社員と比較すると、組織で速く昇進することを期待している。従って、若い社員は上司に遠慮することなく、次の自分の好きな仕事について話し出すので、このようなときに上司との間に摩擦がおきることがよくある。年功序列の中で育成された世代の社員にとっては受け入れがたい態度である。今まで慣れ親しんできた仕事のやり方、考え方を変えようと思っている上司は少ない。若い社員を速いスピードで昇進させた場合の組織としてもう一つの問題は、若い社員を昇進させたはいいものの経験がないので、管理能力のないマネージャーが増えることである。企業側は、速い昇進を期待するY層に、管理の実践を観察する機会を提供し、いいところと悪いところを見せ、キャリア開発面においてY層が現実的な目標設定ができるようにサポートすることが大事である。

仕事に対する姿勢
ジェネレーションYは、仕事に対する姿勢が異なっていて、定刻に出勤して定刻に帰るという型にははまった仕事のしかたを嫌う。「どのように、いつ仕事をするか」が大切ではなく、「仕事をしあげさえすればいいのだ」というメンタリティーがある。ある若い層は、夜の9時から朝の3時に仕事をするのが一番効率性があると信じている。「顔を合わせることと仕事をしあげることとどちらが大事か?」ということになる。Y層は、テクノロジーの中で育ってきており、テクノロジーを使って速くものごとをやりとげる術をこころえている。

ジェネレーションYをうまく生かすには
上司は、まず、「Y層は今後も入社し続ける」という事実を捉え、これらの新入社員を励まし育成するのは自分達の仕事であることを自覚し、新しい対応のしかたをみにつける必要がある。今までのベービーブーマーの上司達は、自分達のやり方を変えようとせず、Y層の意見を聴いたり、コーチングをしたりするという努力をしていなかった。確かに、Y層は、自分で決め、意見を述べ、選択肢があることを好むが、同時に、上司から常に見守ってもらいながらメンタリングをしてもらいたいという要望も強い。従って、1年に1回行事的に自分を評価されることを嫌い、継続的にフィードバックをもらいながら評価してもらうことを期待している。組織の中で、世代の違いがあるからこそ、お互いに学びあうことがあることを認識し、生かすことが大事である。
(このようなY層の仕事に対する姿勢、考え方は、Y層が通ってきた学校での学習方法に大きく関係しているといえる。簡単にご紹介する。アメリカの初等、中等、高等教育において、X層の時代に導入し始められたプロジェクト・ベース・ラーニングは、Y層の時代には完全に定着し、Y層はプロジェクト・ベース・ラーニングを幼稚園の頃より経験し、コンピューター、インターネットを学習の中で利用することがあたりまえとして育ってきた層である。プロジェクト・ベース・ラーニングは、従来の教師の役割も大きく変え、教師は、「上から下に向けて教える」から「メンター」として「見守りながら指導する」に変わった。学び方も、「教師からの受身の学び」から「生徒主体の学び」に変わり、生徒達は与えられた課題に向けてチームワークの中で個性を生かしながらコラボレーションをし課題を解決していく学習方法である。教師の生徒に対する評価方法は、継続評価が主体で、テストだけではなく、さまざまな形体での評価方法をし、評価方法は、オープンである。また、評価をするのは、教師だけではなく、仲間同士、自己評価も大切である。)

2.ジェネレーションYの増加に備えた人材育成の例
今までのアメリカの企業は、採用のしかたの特徴として「経験重視」で中途採用が一般的であったが、この最近の傾向として「高い給料を求める経験者」よりむしろ若い新卒者であるジェネレーションYを優先して採用する企業が多くなっている。ジェネレーションYの増加とともに、どちらかというと伝統的な企業文化をもっている企業も、人材育成のしかたを変えつつある。アメリカの企業は、ジェネレーションYの特徴をつかみながら、それぞれの世代のもつよさを活かせるような人材育成を模索している。以下に、伝統的な大手企業の取り組みをご紹介する。
下記にご紹介するIT関連大手企業A社は、この2-3年にキャリア開発のしくみを大きく構築しなおした企業の一つである。この新しいキャリア開発のしくみは、企業側にとって優秀なジェネレーションYの採用と留保につながることを大きな目的としており、ジェネレーションYについてかなり時間をかけて研究をした結果できあがったものである。下記の図を見て気づかれるように、社員に決定権を与えており、人材開発部は、社員を型にはめて育成しようとしていない。また、リーダー(上司、マネージャー)の役割としてフィードバック、サポートを提供するとある。大きくシフトしたのが、集合研修等をふくめた「教育」からの学びが5%、「OJT」での学びが75%である。将来は、「人を通しての学び」、「仕事をしながらの学び」へよりシフトしていくという。A社では、新入社員は1年間4回仕事のローテーションがあり、各職場でメンターについて自分に合った仕事をみつけていく仕組みになっている
また同社には、「人を通しての学び」の中にある「コミュニティー・オブ・プラクティス」(CoP)が多数存在している(※)。専門知識の共有の場として、複数のCoPに参加している従業員もいる。

※CoPについては最後に解説があります。
CoPについて
日本語では「実践共同体」あるいは「実践のコミュニティ」と訳される。ある分野における知識の習得や研さん、あるいは知識を生み出すといった活動のために、持続的な相互交流を行っている人々の集団のことである。そこでは学習とは、個人が知能や技能を習得することではなく、CoPへの参加を通して得られる役割の変化や過程そのものであるとされている。
こうした考え方は企業教育の分野でも活用されている。自分の専門分野、関心のあるトピックについて自分の考え、仕事の体験を共有しあい、問題解決、仕事のやり方向上のためにお互いに話し合うことによって、お互いに学びあうインフォーマルな場などである。プロジェクトチームが「業務を通して」つながっているのに対して、CoPは、「知識を通して」つながっていると言える。従って、プロジェクトが終わるとプロジェクトチームはなくなってしまうが、CoPは参加者達がお互いに学びあいたいという関心がある限り存続する。CoPとネットワーキンググループとの違いは、CoPは単にいくつかがつながっているグループではなく、一つのコミュニティーとしてのアイデンティティーがあり、集合で学びあうというプロセスを通して、「共有されたプラクティス」を生み出すことを目的としている。CoPのメンバーであるための条件は、参加し、よりよいプラクティスにするよう貢献することである。

ここで、企業における現在のCoPについて簡単に触れておきたいと思う。
企業は「社員達がもっている知識で表面化されていないものを表面化し社内で共有」、「新しい知識を増加」、「革新的な考えを醸成」するのに役立つというCoPの特徴を考慮し、「知的資産」の増加にCoPを戦略的に活用しようとしている。人材開発部はCoPがとんでもない方向に進まないように軌道修正をしたり、仲人として社内の他のCoPと結びつけたり、必要に応じてガイダンス、リソース(人、時間、お金)を提供したりして、CoPの発展を戦略的にサポートしようとしている。このように、自然発生型で自活型がほとんどであったCoPの形成状況は、少しずつ変化しつつある。A社もこの流れにのっており、全社に散在しているいくつかのCoPをつなげて「ベストプラクティス」を出し、全社的に標準化しようとしている。
バーチャルオフィス化が進んでいるIBM社においても、CoPは重要な役割をはたしている。世界中に散らばっている同僚たちと自分たちの新しい考え、成功事例を共有する業務分野別のコミュニティーがイントラネット上で数多く活用されている。各コミュニティーには上位レベルのマネージャーがスポンサーとしてついている。参加者各自が自分のポータルを作成し、自分のポータルからさまざまなコミュニティーに参加している。コミュニティー自身は、好き勝手に立ち上がっているのではなく、ビジネス・ニーズに応じてコミュニティー同士が連携するというように変化している。
IBM社では、CoPでのできるだけリアルなコミュニケーションを目指し、インスタントメッセージ(IM)を活用するようにしている。その際、感情表現のマークの使用を奨励している。IBM社では、このCoPのおかげで女性が取得する特許数が多くなったというような結果も出ている。
アメリカでは、CoPの今後の動向としてはWiki、ブログ、インスタントメッセージ、MySpace、RSS、タギング、シミュレーション、Web 2.0を「ソーシャルテクノロジー」として利用しながら、人財戦略に活用していく方向にある。また、音声、文字、ビデオ、グラフ、アニメなどのコンテンツの閲覧などをパーソナルコンピュータだけではなく、携帯端末(ブラック・ベリーなど)やスマート・フォンをCoPに活用しようともしている。

 

DLCメールマガジン購読者募集中

デジタルラーニング・コンソーシアムでは、eラーニングを含むデジタルラーニングに関するイベント、セミナー、技術情報などをメールマガジン(無料)で配信しております。メールアドレスを記入して『登録』ボタンを押してください。