第18-3回 欧州総括編(3/4)ヨーロッパにおける「情報化社会に対応した」人材育成 (続編)デンマークの労働市場と知的生産者育成モデル

2007/09/27

(ダニスコ社ケーススタディーの続き)

4.コンピテンシー開発とeラーニング
「ダニスコ・ラーン」
ダニスコ社は、「すべての社員に高いレベルでの学びの機会を与えるという」ことを言動一致で実施しており、実際、上下関係なく、新入社員もトップ層と同じレベルの学びの場が与えられている。「継続的な学習と人材開発は毎日の生活の一部」となっている職場環境の中で、「組織の壁なくお互いに学び合うこと」を、「ダニスコウェイ」は明示している。世界中にいる社員を対象に、「ダニスコ・ラーン」という社内教育ポータルをうまく活用し高いレベルでの学びの機会を提供しようとしている。

「ダニスコ・ラーン」には、オリエンテーション用プログラム、製品研修、ダニスコIT、ロータスノート、「バーチャル・チーム」プログラム、SAP HRシステムプログラム等全部で75コースがある。英語学習プログラムには特に力をいれており、コースはほとんど英語であるが、10カ国語に訳されているコースもある。社内研修プログラムをすべての社員が受けられるようにという目的で、ライブのバーチャル・クラスルームを導入してある。ここで使用されているツールは、社員の研修状況をマネージャー達にドキュメント化しレポートができるようにしてあり、マネージャーが社員の研修に「ダニスコ・ラーン」を利用していこうというやる気を高めるように工夫されている。

オリエンテーション・プログラム
オリエンテーション・プログラムは多くの製品やそれに関連する基礎知識を研修によって得られるようにしなければならない。そのため、製品知識の研修はeラーニングが利用されている。それらはシミュレーション・タイプで、従業員はインタラクティブにビデオゲーム的に学んでいる。例えば、ダニスコ社の製品知識のeラーニングは、従業員は、普通の客として食品マーケットへでかけ、棚に並んでいるダニスコ社の製品を見ながら製品について学んでいくことができる。この研修は、製品知識を単に詰め込むだけでははく、インタラクティブに楽しく学習体験をしながら製品知識を習得することを目的に開発されたものだ。その効果は、コースの修了後行われるテストで、多くの場合非常に良い結果がでることが証明している。

新製品の営業研修
この研修は、これまで集合研修で行っていたが、現在はeラーニングを活用するようになった。eラーニングによって、営業担当者は、すべてを覚える必要はなく、顧客と一緒にオンラインで製品をレビューすることができるようになった。

コンプライアンス・プログラム
コースは「セクハラ」、「安全性」など様々だが、職場のイントラネットでも自宅のインターネットでも受講できるようになっている。このプログラムはライブ・バーチャル・クラスルームを使って、インタラクティブに学べるので受講者にも好評だ。

ローカルなニーズに合わせる
「ダニスコ・ラーン」は世界中の社員が活用できるようになっているが、「ダニスコ・ラーン・スーパーユーザー」と呼ばれているローカルの推進者達に協力してもらいながら各国、各地域にあわせた設備、研修プログラム、プロジェクトを提供している。

例えば、子会社であるアメリカのジェネンコア社の場合は、「人のやる気をうながすような文化を創る」という独自の企業文化があり社員に“Enjoy Work”を言い続けており、社員自身が自然に「仕事が楽しい」と思うように、自分のしたい仕事に就いてもらうことを大切にしている。仕事は個々の社員に選択の自由を与えているので、社員は、「ダニスコ・ラーン」にある広い範囲のジョブディスクリプション(職務内容の一覧)の中から、自分が関心もって没頭できるような仕事を探し、自分にその能力があるかどうかを判断するようになっている。

従業員が企画する学習
自分の仕事に関連しているトップレベルの教授やエキスパートを自分たちで人選してサイエンティフィックな講演、講義をしてもらう研修は大変人気がある。社員は常に最先端のレベルにいたいという気持ちが強く、知識は古くなってしまうから新しい知識に投資すべきという考え方は普通である。例えば、アメリカの子会社であるジェネンコア社では、毎週金曜日の朝、「R&Dセミナー」と呼ばれているミーティングがあり、研究助手のレベルから上級サイエンティストレベルの人たちが集まって、自分達がやっている仕事について共有している。ある特定のトピックについて話し合うこともあれば、ある専門のことについて社外からの専門家に話してもらうということもある。このようなミーティングは、オンラインでも参加できるようになっている。

5.ワークライフ・バランスをサポートするeラーニング
「ダニスコウェイ」は価値の創造は顧客、株主、社会に対してだけではなく、社員に対しても「エンプロイアビリティーの維持と向上」による価値の創造をはっきり明示している。上記の「コンピテンシー開発」というアプローチはこの社員の価値の創造にはなくてはならない要因であるが、さらに、「ワークライフ・バランス」という面からのアプローチも行っている。

デンマークは、心身ともにヘルシー・ライフスタイルを大事にする国で、社員もそれを当然のように要求している。従って、「ワークライフ・バランス」はデンマークの企業では特別なことではなく、一般的であり、同社でも、職場で私用をすませたり、自宅で仕事をしたりというように、職場と自宅をはっきりと切り分けをしないようにして社員の「ワークライフ・バランス」をサポートしようとしている。共稼ぎがあたりまえの社会なので、特に仕事時間の柔軟性は重要である。さらに、「Fun」(楽しむ)はプライベートな生活だけではなく、職場でも存在するように工夫されている。同社では、ここにITがうまく活用されている。

「オンライン・サークルズ」:社内エージェンシー・サービス
アメリカの子会社であるジェネンコア社には、「オンライン・サークルズ」と呼ばれる旅行プラン、コンサート・チケットの購入、イベントの参加予約などができるエージェンシー・サービスがある。オンライン・サークルズの一環として、オンサイトのトラベルエージェントは、仕事に関係したものだけでなく、個人的な旅行プランも可能で、予約、購入までもができる。このサービスは従業員だけではなくその家族も使えるようになっている。そのほかにも、講演内容にもよるが講師を呼んで講演会をするとき、このサービスを使って、社員の家族であればオンラインやリアルタイムでの参加もできる。

*ちなみに、ジェネンコア社は、2005年に米国人材マネジメント協会(SHRM:Society of Human Resource Management)と世界中の「ベストな職場」をランク付けするGPTWI(Great Place to Work Institute:働きがいのある職場協会)が選ぶ「全米の中小企業部門」で「ベストな職場:Best place to work for」部門1位に選ばれた。処遇、高い定職率、仕事への満足感、仕事の安定性が評価対象項目となっており、すべてにおいて高い評価を得た。「ベストな職場」としてランク付けされたのは、2005年だけではなく、2004年にも4位にランクされている。このGPTWIにランクされたバイオテクノロジー関連会社は、会社の規模に関係なくジェネンコア社が初めてであることは注目に値する。


以上でダニスコ社の事例のレポートは終わります。次回は欧州編の最終回です。

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