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第2回 eラーニングシステムの導入前の期待と導入後の実態に関するユーザーのギャップ意識 大学、専門学校関連編
Ⅱ.大学、専門学校関連ユーザー
昨年、仕事で私の同僚2人と日本へ行ったときのことであるが、仕事が終わり、夕食を済ませてほっとし、みんなでホテル内にあるインターネット・カフェへコーヒーを飲みに行くことになった。しばらくコーヒーを飲みながら話をしてから、同僚の一人であるリンダは「ちょっと待っててね」と言ってインターネットにアクセスし始めた。10分ほどしてから、また私達の方を向いて、笑いながら「オンラインコースの学生にフィードバックを与えていたの」と言う。彼女は、フットヒル大学で教員研修のオンラインコースを担当していた。彼女はあの後、インドの方に足をのばして旅行を続けたが、その間に講義もやり続けていた。彼女曰く、講師としてのeラーニングの魅力は「自分の好きな時間に好きな格好で、プライバシーに干渉されず教えることができることね」と言う。
現在、リンダの教えているコミュニティー・カレッジを含めて、ほとんどのアメリカの大学は、オンラインコースを何らかの形で提供している。完全なオンラインによるMBAプログラムは、1989年には5つしかなかったが、今では95(eラーニング・コンサルティング会社Geteduated.comのCEO Vicky Phillipsによる )もある。また、修士号、博士号を与える教育機関は、現在65(Education & Library Science 2003)ある。アメリカの「トレーニング」誌2003年5月号によると、現在、初等、中等、高等、大学教育を含めて、オンラインで単位修得プログラムを受けている学習者の数は35万人いると推測されている。ボストンのEduventures.comの研究所によると、オンラインだけで単位を修得できるプログラムは年間40%の割で増えていくという。今年の8月のBay Area ComputerUser “Online learning: the big man on campus”の記事で、オンライン大学で有名なフェニックス大学の特集があったが、これを含めて最近のオンライン大学の成功事例を紹介している記事を読んでいると、あたかもオンラインコースを提供している大学は全部成功しているかのように思えてしまうのだが、本当にそうなのだろうか?
その実態について、調べてみたところ、新聞、雑誌が書いてある華やかさとは裏腹に、「成功事例より失敗事例の方が多い」ということが、アメリカ国立教育協会National Education Associationの高等教育研究所が出している「Update」誌、2002年10月号のレポート「遠隔教育が約束したこととその現実」で報告されていた。このレポートの内容をもとに、アメリカのオンライン大学の実態をまとめてみた。(註:企業では「eラーニング」の用語が一般的になっているが、学校関係者の間では、「遠隔教育」、「オンライン学習」の用語の方がよく使われているので、ここでは、特に用語は統一せず、引用した個所はそのままの用語を使うようにした)
1.経営、運営側
1)誤算:一般学生は「便利」なオンライン学習に関心が強いはず
大学側は、社会人学生とは別に一般学生の申し込みをあてこんでいたのにもかかわらず、実態は予想以上に申し込み数が少ない という。アリゾナのコミュニティー・カレッジの失敗事例を見ると、その原因として「一般学生のオンライン学習への関心度が期待に反して、低かったこと」 と、「大学側が学生をもっと惹きつける努力をしなかったこと」、「大学側が学生へのサポートの重要性を軽視していたこと」をあげている。また、英国のe ラーニングでは歴史ある大学として知られているOpen Universityの失敗事例を見ると、大学側は、英国では成功していたので、そのままアメリカでやろうとして2000億ドル以上をかけて開校したが、 結果として充分な学生数と収入がなかったがために、わずか2年で閉校になった。企業で働きながらこのコースを受けていたある学生は、「アメリカで通用する 大学の単位を出していなかったこと」と、「アメリカでは大学としての認知度が低かったこと」等が理由で、企業側は授業料の補償をしてくれなかったと言う。 今年の「トレーニング」誌5月号によると、企業が従業員にお金を出して大学のコースをとらせる場合、大学の認知度と国(州)で認めている単位かどうかを意 外に重要視しているという。日本の文部省にあたるものがアメリカでは州毎にあることから、その州で認めている単位であるかどうかを、学生はコースの申し込 みをする前に確認をする必要があるという。
2)誤算:従来の学校経営方式でオンライン教育を事業化できる
多くのオンライン大学は、企業文化で運営することができなかったために赤字経営になってしまっている。NYUオンライン(ニューヨーク大学オンライン)は ニュヨーク大学の営利部隊として2500万ドルをかけて企業顧客を対象に7つのコースを開発したにもかかわらず、うまく行かなかった。その理由は、しっか りした経営戦略が無かったからである。NYUオンラインはコース開発前に市場調査をしっかりやらないまま文科系のコースをWeb化してしまっていた。大学 のやる営業、運営は、実際のビジネス界のものとはかなり違っていたということである。NYUのように、オンラインコースを提供する組織を別に「営利団体」 として設立している大学のケースは多い。しかし、新しくできた「営利団体」としての組織と従来からの「非営利団体」としての組織がうまく協力しながら行く ケースは多くない。フェニックス大学のほかに、UMUC(軍用のプログラムをワールド・ワイドで展開している大学)やサンディエゴ州立大学(外部のバー チャル大学「UKDアカデミー」と組んで企業内研修用のオンラインコースを提供)等は「営利団体」として成功している大学の一部である。
3)誤算:「オンラインコースは集合コースより安くつく」
昨年、テクノロジー・プラットフォームの主なプロバイダーであるブラックボード社、WebCT社は、ユーザーからの要望に応えて新しいソフトウェアをリ リースするとともにオプションに対して大きな値上げをしたが、特にWebCTは1つの製品が数百万ドルもし、決して安いものではない。Alfred T. Sloan Foundationの研究結果によると、大学でやる遠隔教育(eラーニング)は損をすることもなく儲けることもないビジネスであるという。多くの大学教 育機関は、「遠隔教育は決して簡単なサイドビジネスの手段にもならないし、コスト削減の手段にもならない」ということに気がつきはじめた。システムのサ ポート・サービスはコストの効率化にかなり影響をあたえるものであるが、多くの教育機関では例えば従来の申し込みシステムの運用に必要とされるサポート・ サービスについて考えも及ばないのが現実である。また他のコストとしては、機器、ソフトウェアの更新などの維持管理費用や継続的な研修実施にかかる費用が ある。
2.ファカルティー(教員)側
1)誤算:集合教育とオンライン教育は同じように教えることができる
冒頭でご紹介した同僚リンダの場合は、テクノロジーを利用して教育をすることにかけては20年以上の経験を持つベテラン中のベテラン教員である。また、時 間管理が上手で私が想像できないような数のプロジェクト、タスクを担当していてもすべてをこなしてしまうというマルチタスク人間でもある。従って、彼女の 場合は、オンラインコースの講師という仕事は彼女のスタイル、生活ペースに合っていて、かなり好意的な見方をする。彼女の場合、非同期型でも同期型でも対 応できる能力のある数少ないオンライン教員である。しかし、多くの教員は彼女のようなタイプではない。特に大学で長年従来のやり方で教鞭をとってきている 教授にとって、同期型のオンライン上の講義は従来の集合クラスルームとは違う教え方、教材のプレゼンのしかた、自分の役割についての新しいマインドセット が必要で、なかなか大変なものである。同期型オンライン上の講義を担当するには、マルチタスクができるだけではなく、効率的な学習にするためのさまざまな テクノロジーを操作できるスキルがいる。これには、教員の研修なしでは、同期型のオンラインコースを担当することは無理である。スタンフォード大学のス タッフ研修の担当の人の話だが、オンラインコースを大学でやるときの一番のチャレンジは、コンテンツ開発うんぬんよりも「教授にオンラインコースを教える ことができるように研修すること」だと言っていた。
フェニックス大学のCEOであるBrian Muellerによると、フェニックス大学で教えるオンライン教員は「成績のつけ方」だけでも2週間の研修を受けるという。また、大学側が教員を評価する 厳しいプロセスがあり、教員は各クラスのスコアをある一定以上保持しておく必要があり、その結果に応じて、教員の追加の研修の必要性を検討するしくみに なっているという。また、各クラスでやられている内容(講義、ディスカッションの対応のしかた)はすべて記録されており、それをレビューする専門員をおい て、講義の質の管理を行っているという。
3)誤算:「オンラインコースは集合コースより安くつく」
昨年、テクノロジー・プラットフォームの主なプロバイダーであるブラックボード社、WebCT社は、ユーザーからの要望に応えて新しいソフトウェアをリ リースするとともにオプションに対して大きな値上げをしたが、特にWebCTは1つの製品が数百万ドルもし、決して安いものではない。Alfred T. Sloan Foundationの研究結果によると、大学でやる遠隔教育(eラーニング)は損をすることもなく儲けることもないビジネスであるという。多くの大学教 育機関は、「遠隔教育は決して簡単なサイドビジネスの手段にもならないし、コスト削減の手段にもならない」ということに気がつきはじめた。システムのサ ポート・サービスはコストの効率化にかなり影響をあたえるものであるが、多くの教育機関では例えば従来の申し込みシステムの運用に必要とされるサポート・ サービスについて考えも及ばないのが現実である。また他のコストとしては、機器、ソフトウェアの更新などの維持管理費用や継続的な研修実施にかかる費用が ある。
結論:
NEAのレポートは、成功しているオンラインプログラムは従業員のテクニカル・スキルの向上のためのクラスとか、集合でお こなう普通の大学に行くことが物理的に難しい学生に対応してあるクラスというような「特定のニーズに応えているもの」であるという。さらに、同じ大学内で 考え方、経営の仕方の違いなどでお互いにいがみあっているような組織同士でやっている場合より、組織全体が一つとなって、オンラインプログラムをやってい こうとしている場合の方が、それが営利を目的にしているいないに関係なく、成功している場合が多いことを指摘し、「単に、お金儲けあるいはコスト削減を目 的とした教育機関の多くが失敗に終わっている」と結論づけている。
大学のオンラインラーニング事業は華やかな外見とは違って、実際は成功より失敗の方が多いという事実は、アイデアだけが先 行し、基本的な経営戦略なしにお金儲けを夢見たシリコン・バレーのドット・コム企業の浮き沈みを思い出させてくれる。せっかく高い投資をしてシステムを導 入しても、基本的な教育理念と企業理念がバランスよく事業経営を支えているような組織にしない限り、教育事業として成功しないようである。
Ⅲ.今年のeラーニングのキートレンド
最後に、すでに1年の半分を過ぎ去ろうとはしているが、David Anderson, VP EMEA for Centra が2003年の3月4日付けでTrainingZone.co.UKで発表した記事「eラーニング2003に対する予測」を要約した形でご 紹介したい。企業を対象にしたeラーニングの動向が中心ではあるが、大学関連の方々にも御参考になるものがいくつかあると思う。
1. ビジネス戦略としてのeラーニング
eラーニングをすでに導入した企業は、「従業員や顧客に対して適切なトレーニングをしない限りは、大きなERP、CRMへの投資は無駄になる」ことを実感 している。職場の生産性を高めるためのものとしてEメールパッケージや他の製品が使われているのと同じように、eラーニングは組織のインフラの一部として 今後は使われていくであろう。
2. 特定のアプリケーションとしてのeラーニング・ソリューション
カスタマー・コール・センターがいい例であるが、ソフトウェアの使い方、あるいは電話での顧客対応のしかたについての研修をeラーニングでやる。職場を離 れることなく、必要なコミュニケーションをとり、コラボレーションをしながら、従業員は新しいやり方についてのテクノロジー研修をすることができるという わけである。
3. スィート・ルームとしてのeラーニング
これは大規模なeラーニングシステムのことで、「コンテンツ」、「テクノロジー」、「サービス」の3つのカテゴリーが統括されたものである。ユーザーは特 定のビジネス・イシューに対して、必要なコンポーネントを各カテゴリーから選び、トータル・ソリューションに作り上げていく。自分の組織に最適なeラーニ ング・スィート・ルームを作るためには、既存のコンピューター・インフラに容易に導入できるようなオープン・インターフェースを使い、業界スタンダードに あっているかどうかを確認しておくことが必要である。
4. ブレンディッド・ラーニング
最近の流行している動向でもあるが、eラーニングを従来の集合研修と組み合わせることによって全体的な学習効果をあげることを目的とした研修プログラムの ことである。組織全体の研修ニーズに対応するには、単一のデリバリー方法では充分ではなくなっている。
5. 個別から統合への動き
ブレンディッド・ラーニングの動きと歩調を合わせるようなかたちになるが、1つの学習活動から他の活動への移行をシームレスにやりたいという要望が増えて きている。すなわち、学習活動とデリバリー・メカニズムの統括化という動向である。例えば、ライブのグループ活動から個人別練習への移行、自学自習から同 期型学習への移行、小グループ活動から大きな学習コミュニティーへの移行といったような移行がシームレスにできるということである。
6. デジタル・コラボレーションは「学習」になる
eラーニング、オンライン・コラボレーション、ナレッジ・マネージメントは、ばらばらに存在するのではなく、どれかと一緒になるという傾向がある。このた め、デジタル・コラボレーションとナレッジ・マネージメントの両方に対応できるeラーニングが必要である。デジタル・コラボレーション・プラットフォーム の標準化の動きがあるということは、今後システムを購入する前にIT関連組織の人達を意思決定プロセスに参加させる必要があるということである。
7. ビジョンよりビジネス・リターンが大事
最近の不況の影響で、ビジネス界ではキービジネス、直面している問題解決、即ROIにつながるビジネス・ソリューションとしてのeラーニングにのみ投資する傾向にある。
8. コンテンツのリ・パーポージング(再目的化)
ハイブリッド学習経験(学習者は、学習目的にあわせて、一番適切な内容を、最適なタイミングのときに、最適な方法で学習経験ができること)への傾向が強く なると同時に、自学自習、コンテンツ・マネージメント、ライブ学習がひとつのプラットフォームの下で一緒になるというのは、コンテンツ開発面だけではな く、異なった学習タイプの人達の学習ニーズに応えるという点でも大変重要なことである。
9. LMSは消えていく
2-3年前まではLMSの戦略は通用していたが、組織の直面している時間、コスト、リソース、エネルギーに対する強いコミットメントはどの企業でもできる ものではない。現在のトレンドとしては、まず「大きなナレッジのデリバリー」を図式化し、職場のあらゆる現場からの学習ニーズに対応できるよう人材管理、 学習管理、コンテンツ管理を一緒にすることである。
参考資料
- “The Promise and the Reality of Distance Education” , NEA (National Education Association) , Higher Education Research Center,Volume 8, Number 3, Oct 2002
- “Online Degree”, Traning, May 2003
- “Worldwide classroom” ComputerUser, Ari Kaplan, August 1, 2003
- “Online learning: the big man on campus, ComputerUser, James Mathewson, August 2003
- “Global Classroom” ComputerUser, Ari Kaplan, August 1, 2002,
- “Reality Gap”, Onlinelearning, SRI Consulting Business Intelligence,
August 13, 2002 - “e-Learning predictions for 2003” Onlinelearning,, March 4, 2003, David Anderson, VP EMEA Centra
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