第15回「ヨーロッパにおけるeラーニング・ユーザー事例」

2006/08/21


前回のレポートでは、eラーニングの最近の動きをLMS等システム関連ベンダーとコンテンツ関連ベンダー側から捉えてみたが、今回のレポートでは、ユーザー側から捉えたEラーニングの動きをまとめてみた。


I.ノルウェーのIf Private社(*1参)の事例「コンテンツ社内開発」

If Private社の 「コンピテンシーと人材開発部」のコーディネータであるサジェルモさん(Nina Sagelvmo)は「Eラーニングは異なった部署間での知識の共有、スキル管理計画に欠かせないものです。私達は、現在Eラーニング専門の部なしで、大変な数のコース、プログラムを運営しています。異なったいろいろなコースがありますが、それらは社内のSME達がソフトウェアに詳しいほんの僅かの社員の手を借りて作っています。我社では、Eラーニングは、情報をもっているある人からそれを必要とする社員へできるだけ速くその知識を配信することに利用するようにしています。これを効果的にするには、情報チェーンのリンクをできるだけ少なくし、事務的なプロセスを最低にすることがとても大事ですね。」とシステムの簡素化を強調していた。

シンプリシティーは複雑性に勝る
If Private社は会社の競争力を強化するという目的で、早くからEラーニングを導入していて、経験の共有と他の学習に利用してきている。しかし、どのソフトウェアの組み合わせが自分達の目的にふさわしいのかを見極めるにはかなりの時間がかかったと言う。サジェルモさんはその当時のことを振り返って「チャレンジは、社員が早く使い方を学んで、実際にそれを利用するということだけではなく、知識のある人達がそれを共有しやすいようにするにはどうしたらいいかということでした。」と言う。さらに「我社では、大きな組織内にある複雑な情報を取り扱っていますが、当然複雑な情報を取り扱うための効率的なシステムが必要になってきます。同時に、情報をもっている人達は自分達の情報をコースとして自分達で作成できるようにならなければならないことを深刻に検討し始めました。」と社内コンテンツ作成の重要性と社内コンテンツ作成用のシステム導入に到った経過を話していた。

その結果、If社は Mohive Toolbox 3.0(*2参)を いくつかあるEラーニングシステムの一つとして選択した。 Mohive Toolbox はEラーニング用エンタープライズ・パブリッシング・システムで、知識を所有している社員は自分達でフル・スケールのコースを作成し、他の仲間達に共有することができる。このシステムは、ワークフローに強くフォーカスしており、ユーザーにとって本当に必要な価値あるコンテンツだけをパブリッシュするという「質の保証」と結び付けられている。If社このような「質の保証」の点でもこのシステムを高く評価している。

さらに、「このプログラムを利用しすでにかなりの効果がでています。研修のための出張に関わるコストと時間削減だけではなく、会社全体の知識レベルの向上に多いに役立っています。実際に顔を合わせてミーティングをするときには、今まで以上に生産的でよりよい結果が出ています。」とコスト削減だけでなく、知識レベルの向上や生産性向上といった面でも高い満足度を示している。

2.ドイツ ルフトハンザ社「スピーディーなコンテンツ作成ソフト」

ルフトハンザ社(*3)には他の航空会社同様、"Miles & More" というフリークウェント・フライヤーのプログラムがあるが、現在、"Miles & More"に関わっている世界中のコールセンターのエージェントを対象して クラスルーム研修とWBTのブレンディド型ラーニングを提供している。ブレンディド型の研修プログラムの導入に到った理由は、コスト削減を目的としたものではない。大変きついスケジュールで働いているエージェント達を必要だからといってクラスルーム研修に参加させることが大変困難になってきているので、その対応策としてエージェントへの時間的なフレクシビリティーの向上のために作られたものである。

現在、ルフトハンザ社は、このブレンディド型ラーニング用で使うコンテンツ作成に対して、「スピーディーなコンテンツ作り」プロジェクトに取り組んでいる。このスピーディーなWBT用コンテンツ作りのツールとして選択されたのが、Bernard D&G社(*4)の TurboDemoである。

すべてのWBTコンテンツは4つの大陸にまたがって世界中にいるSME達とトレーナー達とのコラボレーションによって作られた。作成に関わったグループはソフトウェアのデモとシミュレーションを作るのにBernard D&G社の TurboDemoのキャプチャリング・ツールを利用したりしたという。

他の会社はこのようなスピーディーなコンテンツ作成をやるときには、特別の専門部署にチームを作ることが多いが、ルフトハンザ社では、TurboDemoを使うことで、それ用の特別スタッフを雇ったりするような莫大な費用をかけなくても、「スピーディーなコンテンツ作成」を従来のスタンダードなやり方として定着させることができることを証明した。最初のコースは無事に終了し、2005年の4月には150人のエージェントがこの新しいプログラムに参加した。参加者からのフィードバックは大変良かったので、ルフトハンザ社では2006年はこのようなプロジェクトをより増加すると言っている。

3. Canon Europe 社

キャノン・ヨーロッパ社(*5)は、ヨーロッパ、中近東、アフリカにいる1万1千人の社員に対して、専門分野、ITスキルに関する研修を多言語で提供できるEラーニングの契約をThomson NETg社(*6)と2005年の11月に結んだ。

キャノン・ヨーロッパ社にとって、変化の激しいビジネス環境に対応するのに必要なスキルに対して誰でも平等に継続的にアクセスできるような学習環境を社員に提供することがThomson NETg社との契約の大きな理由である。社員は、キャノン・ヨーロッパ社の既存のLMSであるMyLearningZoneを使うことによって、自分のコンピュータからアクセスできるようになっている。

キャノン・ヨーロッパ社のヨーロッパEラーニングマネージャーのチアッペ部長(Dominic Chiappe)は「Thomson NETg社の統一された学習環境のおかげで、導入はたった2-3週間でできました。コンテンツは他のLMSのスタンダードに準拠しているので、我社のLMSとのインテグレーションは一度だけで済み、Thomson NETg社が提供しているすべてのコースを一つのプラットフォームで速くスムーズに流すことができるようになりました。Thomson NETg社が我社のビジネスニーズをよく把握してくれていることは大変助かっています。」と導入のスムーズさの重要性を語っていた。

「現在、我社のEラーニングは社員が必要としているものを必要なときに学ぶことができ、ビジネスのニーズに合わせて社員のスキルが更新されていけるようになっています。キャノン社のようなグローバル企業にとって、多言語対応で学習を提供することは大変重要ですが、現在、キャノン・ヨーロッパ社のLMS「 MyLearningZone」では20か国語に対応できています。」と多言語対応の重要性を強調していた。

このLMSを介して、社員はThomson NETg社のプロフェッショナル、 IT デスクトップ、、 IT プロフェッショナル・コースに速くアクセスできるようになっている。スキルとしては、戦略的マネージメント、リーダーシップ・スキル、コミュニケーション・スキル、ロータス・ノート、オフィスXP、オラクル、CompTIAがある。

現在、キャノン・ヨーロッパ社の研修の20%はオンラインで実施されており、2006年の末までには、40%まで増やす予定であるという。Thomson NETg社のEラーニングは従来のクラスルーム形式の研修、本、ビデオ等と組み合わせたブレンディド・ラーニングのソリューションとして利用されていくと言う。

4.イギリス ICI社 「オンデマンド・ラーニング」

ICI社(*7)は1998年よりThomson NETg社のEラーニングを利用しているが、現在ICI社は、55カ国にいる社員に提供するため、オンラインコースを倍増しているところで、Thomson NETg社のオンデマンド・ラーニング・ソリューションである Search Nowを導入した。

ICI社のグループ会社であるNational Starch & Chemical社のガン部長( Steve Gunn、 Senior Communications Manager )は、「ICIはすべての社員に対して、各自の可能性をフルに育てる平等な機会を提供することをコミットしており、世界中にEラーニングを導入しているのは、その結果です。」とICI社の社員に対するコミットメントを強調した。

現在 ICI社のLMS「Learning Zone」は Thomson NETgがホスティングしているが、ICI社にとってのメリットは、会社にかかるリソース(人件費維持費等)への影響を少なくできると同時に、社員は自分の職場だけではなく、家庭のPCからもアクセスができるようになっているということである。世界中にいる社員は、100のThomson NETg社の IT デスクトップコース、350のビジネスコース、プロフェッショナル・スキルコースへアクセスできる。

ガン部長は、「Search Now を使うことによって、社員は新しいスキルを必要としているときに、一番最適な学習方法で学習を受けることが可能になります。例えば、社員がプレゼンテーションをする前に、効果的なプレゼンテーションをするのに必要なヒント学びたいとすると、それだけを短い時間で学習することができるというような方法です。デマンド・ラーニングを社内に導入したいと思っていたのですが、いくつかの候補の中からThomson NETg社の Search Nowを選びました。タイムリーで自分の仕事に直結したものを学ぶことによって、社員は自分の仕事をスマートにかつ効率的にやっていけるようになると確信しています。」とデマンド・ラーニングのメリットを指摘していた。

ICI社ならではのユニークなサービス:
ICIは、社員にとって働き甲斐のある会社となるためにも、「Friends and Family' service」プランを実施している。これは、社員の家族3人まで 無料で家庭からコースをとれるというもので、マイクロソフト・オフィス コースの他に、時間管理、電子フォトグラフィー・スキル等のコースをとることができる。

コンピテンシー・フレームワーク:
コンピテンシーフレームワークはICI社で今までの成功要因(会社のビジネスの業績に貢献した優れた人達の個人の性格特徴、行動、スキル)をもとに作られたもので、Thomson NETgのコースはすべて、この成功要因に基づいてつくられている。このようにすることで、ICI社は自分達の仕事に必要な人材育成に活用できる。

ICI社は1998年より Thomson NETgを使っているが、その当時、標準ソフトのグローバルな変更を全社的に実施するに際し、コスト的にも、アクセス的にも効率的な学習が必要であった。導入当時からすると、利用率は上昇し、2004年の11月には4000登録ユーザー数があり、現在4700以上のユーザー数で、この数値は増加しつづけている。

Thomson NETg社のEラーニングは本、ビデオ、クラスルーム研修等と平行して実施されている。多くのEラーニングはクラスルーム研修を受ける前の必須コースとして取り扱われている。

5.Loma社 の事例 「会員会社とカスタマーへのコンテンツ提供」

LOMA社(*8)はEラーニング・ポータルであるLOMALearn Onlineを使って、グローバルな保険関係と金融サービス関係の教育と研修を提供している。システムとしては、WBTシステム社(*9)のTopClass Eラーニング・スイートを利用。

ハTopClass システムは、80以上の国々にいるLOMA社の1200の会員会社及びカスタマーに対して、コンテンツ、研修、サーティフィケーションの管理とデリバリーをする。この新しいシステムを使うことによって、社員だけではなく、LOMA社の会員会社及びカスタマーへもアプリケーション・サービス・プロバイダー・モデルを通してプライベートなオンライン学習を提供できるようになった。「スムーズな導入の秘訣は、XML、J2EE, AICC, スコーム等オープン・スタンダードを使っていることです」とWBTシステム社の担当者はオープン・スタンダードの役割を強調していた。

LOMA社の社長兼CEOであるドナルドソン社長(Thomas P. Donaldson)は、「保険金融サービスに従事している 社員が世界中で毎年10万以上のLOMAテストを受けています。今までは、この種の研修は自習用テキストを使って行っていたのですが、TopClass のシステムを使うことによって、我社独自の学習開発の専門性を生かしながらかつ、新しい方法で研修を提供できるようになりました。例えば、我々はこの業界の研修コンテンツでは、さまざまな賞を得てきていますが、それらを全部まとめて保険金融サービスコンテンツのライブラリーにし、今まで提供できなかった形でカスタマーに提供できるようになりました。このおかげで、LOMAのカスタマーはある特定の学習ニーズに合ったトピックを選び、そこに自社独自のコンテンツを追加したりすることによって、共同ブランド名のコースとプログラムが作成できるようになっています。」と社内だけではなく、会員会社とカスタマーへのサービス向上のメリットを強調していた。

6. イギリス Lloyds TSB 銀行 「社員のパーフォーマンスとビジネス目標」

2005年の12月、イギリスのLloyds TSB銀行(*10)は、 社員のパーフォーマンス向上を目的とした会社の「Performance Learning Management System (PLMS) 」導入計画があるが、それに合わせてSumTotal 社のエンタープライズ・スイートを導入し、社内の学習機能を一つにまとめ、自動化することにした。

Lloyds TSB 銀行は、パーフォーマンスの高い組織作りに向けて、学習とパーフォーマンスの目標を会社のビジネス目標に強くつなげようとしている。パーフォーマンス管理には、「バランス・スコアカード」を利用しており、顧客サービス、成長、リスク面等における社員のパーフォーマンスを今までの「ペーパー・ベース」のプロセスから自動化システムに変えようとしている。

「世界中にいる社員に対してきっちりと学習活動を配信し終了することを保証することは、大きなチャレンジです。今まで、学習結果を測定し、会社全体あるいは所属部門のビジネス目標に各社員の目標に合わせるというようなことを手作業でやっていたのですが、それを、システムを使って学習とパーフォーマンス機能をセントラル化し自動化することにしました。その結果として組織を越えての社員の評価をするというPLMSの役割が目に見えるようになり、このPLMSの利用を推進しやすくなりました。」 とLloyds TSB銀行の PLMS 導入最高責任者であるブリッグさん(Rob Briggs)は 「セントラル化」の効果について述べていた。

ブリッグさんは、このシステムを使うことによってスキルとコンピテンシーのギャップを明確化し、そのギャップを縮めることができると同時に、情報を会社全体を通して必要としている人達に対して迅速に配信できるようになることを期待していると言う。

「我々人材開発部としては、会社全体の目標をサポートするだけではなく、各事業部の目標もサポートする必要があります。PLMSを開発している際、できるだけ多くの事例をシステムの中に入れていたのですが、SumTotal 社(*11)のものが我々のやリ方、組織構造に一番よく似ていました。結果として、ソフトウェアに合わせるために我々のやり方を変えるとか、我々が本当に必要としている機能を使うためにかなりのカスタム化をしなければならないとかいったようなことがありませんでした。」と導入に際して「カスタム化の問題が少なかった」ことをSumTotal 社を選んだ理由として述べていた。

さらに、「いくつかのシステムを一つのプラットフォームにまとめることができたので、パーフォーマンス管理だけではなく、コンプライアンスのようなミッション・クリティカルなビジネス目標に対して全社的に取り組みやすくなりました。どういうことかと言いますと、イギリスの銀行業務規制はより広範囲になっていますが、銀行としては、職員全員がその規制に従うことを徹底していかなければなりません。これを実施するのに、今までのような、それぞれの異なった部署に対して少しずつ実施していくというやり方では、 Lloyds TSB 銀行全体のコンプライアンスであるということを示すことが大変困難でした。」と従来のやり方の問題点を指摘していた。

一つのプラットフォームにすることで、重複を避け、一貫した研修とコンプライアンスの結果を会社全体に保証できるようになった。今後、Lloyds TSB 銀行では、社員のデータをセントラル化するのにSumTotalのプラットフォーム と Oracle社の HRMS システムを一緒にする計画であると言う。

7.まとめ:

世界的なLMS市場の動きとして大手企業の「セントラル化」、「オンデマンド・システム」への移行があるが、ヨーロッパにおいても、大手企業は「できるだけ一つのプラットフォームで」という「システムのセントラル化」が進められているようである。システムの「アウトソーシング化」、「オンデマンド化」は、イギリスのICI社のように増えていくと思われるが、コンテンツに関しては、ルフトハンザ社やIF社のように社内開発が増えていくようである。



*1.If Private社の会社概要:www.if-insurance.com
ノルウェーの保険会社。 北欧地域にいる6千8百人の社員に対して100以上のEラーニングコースを提供。オフィスは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リスアニアにある。

*2.Mohive 社の会社概要:www.mohive.com
ノルウェーのEラーニング・パブリッシング・システム会社で、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリアにも進出している。

*3.Lufthansa の会社概要:www.lufthansa.com
ドイツの国際航空会社

*4.Bernard D&G社の会社概要:www.turbodemo.com
ドイツの会社で、インターアクティブなデモ用、チュートリアル用のコンテンツ作成ソフトを提供している。簡単にすぐできると定評のあるTurboDemoはヨーロッパだけでなく100カ国で使われている。

*5.Canon Europe 社会社概要:www.canon-europe.com
キャノン社の子会社で、1万2千人の社員。

*6.Thomson NETg社会社概要:www.netg.com
世界中に5000の支社をもっている大手の国際ラーニング会社で、コンテンツ、テクノロジー、サービスを統合したラーニング・ソリューションを提供する会社。本社はアメリカのアリゾナ州。

*7.ICI社の会社概要:www.ici.com
ICIグループは1932年にイギリスにケミカル会社として設立された。世界中に3万3千人の社員をもち、食品、化粧品、ペンキ、建築材等5万種類の製品をあつかっている。

*8.LOMA社会社概要:www.loma.org
金融、保険関連の業界に対して、業界情報、研修サービスを提供しているグローバルな法人団体。アメリカのアトランタに本部があり80カ国にまたがって1200以上の会社が会員となている。

*9.WBTシステム社の会社概要:www.wbtsystem.com
1995年にアイルランドのダブリンに設立されたLMS、LCMSベンダー。

*10.Lloyds TSB銀行会社概要:www.lloydstsb.com
1765年に創立された歴史あるイギリスの銀行

*11.SumTotal社会社概要:www.sumtotalsystems.com
アメリカのカリフォルニア州にあるLMSベンダー。エンタープライズ・スイートには、LMS、LCMS, VCS(バーチャル・クラスルーム・サービス)が入っている。

DLCメールマガジン購読者募集中

デジタルラーニング・コンソーシアムでは、eラーニングを含むデジタルラーニングに関するイベント、セミナー、技術情報などをメールマガジン(無料)で配信しております。メールアドレスを記入して『登録』ボタンを押してください。