第14回「ヨーロッパにおけるLMSベンダーとコンテンツ関連ベンダーの最近の動き」

2006/05/09

I.ヨーロッパでのLMSベンダーの動き

1.世界全体でのLMS Marketの動向

2006年2月にBersin & Associatesが「 LMS市場調査2006」のサーベイ結果を発表したが、ヨーロッパの動きと比較するのに興味深いポイントがいくつかあったのでまずそれを御紹介してから、ヨーロッパの動きと比較してみたいと思う。

サーベイ結果のキーポイント
1)2005年のLMS市場の成長率は26%で、今後も成長を続ける
Peoplesof社はオラクル社と , Pathlore社はSumTotal社と , Thinq社及び Centra社は Saba社と一緒になるというように、 確かに、2005年のLMS市場にはいくつかのメインプレーヤーが大手に吸収されていくという合併買収劇はあったが、LMS市場のリーディング・ベンダーはまだ出現していないという。

2)「セントラル化」
この数年大企業の30-40%は既存のLMSをエンタープライズ・アプリケーションとして統合化することに力を入れているが、このような統合化、「セントラル化」は、実際には大変な作業で、思うように進んでいないのが実態である。

3)「オンデマンド・システム」への移行
現在使用されているLMSのうち、37%はLMSベンダーかサード・パーティーにホスティングしている。今後も自前ではなく、アウトソーシングするという傾向は強まるという。特に従業員数百人から1万人以下の中小企業からの需要が増加するとみている。

ちなみに企業のLMSへの年間運営費(システム維持費、人件費などを含む)
の平均は 次のようになっている:

社員10万人以上の企業    $511,000

社員1万人から2万人  $190,000 

社員千人から五千人  $95,000  

4)LMS導入の最大の課題
o システムのカスタム化
o コンテンツの統合化
o HR及び他の企業内にあるシステムとの連動化


2.ヨーロッパのLMSベンダーのパートナーシップの動き

アメリカの大手のLMSベンダーのような買収合併というような大きな動きはないが、ヨーロッパのLMSベンダーの間では、より統合化された学習ソリューションを求めるユーザーのニーズに応えるため、ベンダー同士のパートナーシップの動きが活発である。その中で、最近話題になっているOutStart社の動きを御紹介する。

OutStart社の会社概要:http://www.outstart.com 
本社はアメリカのボストンにあるが、大手だけではなく中小企業用のLMS、LCMSソリューションを提供するので、中小企業の多いヨーロッパで市場を拡大している。

1)Key2Know社とのパートナーシップ
2005年11月にパートナーシップの契約を結んだ。
Key2Know 会社概要:http://www.key2know.dk 
北欧でナレッジマネージメント、コンピテンシー・マネージメント、Eラーニングを専門として活躍しているデンマークの会社

OutStart社にとってのメリット
Key2Know とパートナーシップを組むことで、既存の顧客と将来の顧客に対して知識共有のための商品が入っている「学習スイート」を提供することができるようになる。

OutStart社のEMEA部のニコール副社長(Peter Nicol)は 「我社では、EMEA戦略(ヨーロッパ、中近東、アフリカをまたげた統合的な学習ソリューションを提供)を速いスピードで進めているので、北欧地域に強いKey2Know社とのパートナーシップは願ってもないことである」とEMEAという広範囲の事業展開には欠かせない動きであることを強調していた。

Key2Know社にとってのメリット
OutStart社のコンテンツマネージメントシステム (OutStart Evolution LCMS)と、LMS (OutStart Evolution LMS)、 ナレッジ・シェアリング/エキスパート・コラボレーション・プラットフォーム (Outstart Participate)を利用することで、組織の壁を超えてのユーザー・パーフォーマンスを向上することが可能となり、ビジネスの効率性の向上につなげることができるようになる。

Key2Knowの専務であるピーター氏(Oliver Peters) は「OutStart 社は国に関係なく世界中のユーザーに対して大変効果的なパーソナル化された学習を可能にするソリューションを提供できることで定評がある。OutStart 社の専門性を我社のツールキットに入れることができ大変喜んでいる」と「よりパーソナル化」を求めるユーザーのニーズに応えることのできるメリットを強調している。

2) Allos社とのパートナーシップ
2006年1月に OutStart社はヨーロッパ、中近東、アフリカをまたげた統合的な学習ソリューションの需要が高まっているので、トップ・リセラーであるAllos社とパートナーシップを組むことを発表した。

Allos社会社概要:http://www.allos.co.za
南アフリカに本社があるが、ヨーロッパ、中近東、アフリカ地域で教育関係コンサルティング会社として活躍しており、24年という長い歴史がある。トータルEラーニング・ソリューションを大手の企業に提供している。

OutStart社にとってのメリット
Allos社はヨーロッパ、中近東、アフリカ地域で、大規模なEラーニングプロジェクトを手がけること24年という経験を持っており、 Astra Zeneca社, Vodafone (イギリス)社、 First National Bank (South Africa)社、 Discovery Health (South Africa)社、 Eni社、 Eskom社、 Gruppo Monte Paschi di Siena社等大企業をクライエントとして抱えている。このクライエントにOutStart社の「学習スイート」を提供していくことが可能になる。

OutStart 社のEMEA部のニコール副社長(Peter Nicol)は「Allos社は企業内研修市場に対する知識と理解においては右に出るものはいない。Allos社のこの市場における知識及び今までの優れた導入の業績に、我々のもっている「すでに証明済み」の学習ソリューションを一緒にすることで、ヨーロッパ、中近東、アフリカ地域(EMEA)の企業に対して、社員の生産性、組織の業績を上げ、コストの効率性を上げるようなソリューションを提供していくことができるようになる」と戦略パートナーとしてのメリットを強調。

Allos社にとってのメリット:
Allos社の CEOである トロイス社長(Rosario Troise)は「 OutStart 社は学習、ナレッジ・シェアリング、コラボレーションという分野のリーダーであり、学習とナレッジ・シェアリングの両方のアプローチをうまくブレンドし生かすしかたを提案してくれている。我々の市場における専門知識とOutStart 社のテクノロジーのソリューションを一緒にすることで、ユーザー企業の業績に大きく貢献できると確信している。」とナレッジ・シェアリング、コラボレーション学習のパートナーとしてのメリットを強調。


3.ヨーロッパのLMSベンダーの成功事例

1)Fronter社ヨーロッパを制覇
Fronter社の会社概要:http://www.fronter.com
ノルウェーのオスロにLMS会社として、1998年に設立。ノルウェー国内で成功を収め、スカンジナビア半島の国々、イギリス、オランダに進出し、今ドイツ、オーストリア、スペインとマーケットを広げ、ヨーロッパ全体を制覇しつつある。最新の web-baseで多言語対応型 バーチャル・ラーニング環境(VLE) を提供している。Fronter社のスローガンは "Knowledge through Collaboration"

システムの特徴
このVLE は知名度の高い大学と、教育専門家が協力して開発されたもので、学習指導方法論、使いやすさに留意して作られている。このシステムには50以上のツールが搭載されており、複雑な学習とプロジェクト・マネージメントの仕事を管理できる。アイデアそのものは大変シンプルで、オープン・アーキテクチャーの中に事業部や研修機関の組織構造をマップ化しバーチャルのビルを作り、ユーザーは自分の机上でバーチャルなグローバルチームと日常の仕事をしたり、セミナーの準備をしたり、学際的な研究や授業をすることができるというものである。

ユーザーが好む理由
Fronterを好んで使っているヨーロッパの小学校、中学校、高校、大学、教育機関は、ユーザにとっての使いやすさ、頑丈さ、メンテナンスのしやすさを理由にあげている。

Fronter のライセンス数は150万以上になるが、そのユーザー層は、ノルウェー北部片田舎の小さな学校から、都市の大学、デパート、防衛局やヨーロッパ全体の電子政府というようにいろんな分野にまたがっている。

オランダでのマイクロソフト社との共同展開:
オランダでは、Fronter社はマイクロソフト社と協力し、テレコム会社KPN社のEラーニングパッケージを2006年の1月にスタートした。このパッケージは安全なインターネット環境の中で複数のインターアクションができるので、学習とコミュニケーションを活性化することができる。

例えば、教師はこのパッケージを使って、e-mail やカレンダー(自分のものだけではなく、同僚のカレンダーも)読んだり、ディスカッションに参加したり、教材の準備をし、それを同僚と共有したり、生徒の学習進捗度をチェックしたりできる。生徒はホームページにアクセスでき、e-mail,を読んだり、予定表をチェックしたり、他の生徒達とディスカッションしたり、宿題や課題を自分であるいは友人と一緒にしたりすることができる。親は自分の子供の学習進捗度をチェックすることができる。

ドイツでの展開
ドイツの CBT+L社(1999年に設立され、現在社員は25名。コンテンツ開発を含めてのEラーニング・サービスを提供する会社)とパートナーシップを組んでビジネスを展開。一つは、EU主導の「ミュージアム・スカウト」プロジェクトで、コラボレーション用プラットフォームをCBT+L 社と共同開発。このプロジェクトの目的は、ドイツ、デンマーク、ラトビア、イギリス、ポルトガルの大学生がオンライン上のプラットフォームでコラボレートすることによって、自然博物館としては ヨーロッパ最大の博物館であるミュンヘンの「Deutsches Museum」用の教育モジュールを開発することにある。

ここで開発されたプラットフォームは、現在医療機器の会社 Guidant社にも提供されている。

2)Open Training社のスウェーデンでの成功事例
2005年の12月にスウェーデンのLerniaと OMX社との大きな契約を確保。

Open Training社の会社概要www.futuremedia.co.uk
Futuremedia 社のスウェーデンの子会社でEラーニングコンサルティング会社。Ericsson社、 Volvo社、 Merck Sharpe & Dohme社、 Pfizer 社等がカスタマー。 Futuremedia社はイギリスのEラーニングに関するコンサルティング、LMS,コンテンツ開発等をサービスとしている。

OMX証券会社との契約
OMX社の株取引事業部はコペンハーゲン、ストックホルム、ヘルシンキ、リガ、ビルニュス(Vilnius)、エストニア、ラトビアらの主要地域で株の取引業務を行っている。

Open Training社はOMX社のインターアクティブ・ラーニング戦略のパートナーとしてえらばられた。OMX社は、Open Training社の LMS Learngateを利用し、コース開発用のオーサリング・ツールとしてLearnLabを使う。Open Training社は導入プロセスの間OMX社へのサポートとしてコンサルティングサービスを提供。

Lerniaとの契約
Lerniaはスウェーデン政府の法人団体で、教育、研修が主たる事業であるが、起業家への運営投資等も行っている。2005年には、百箇所で4万7千人に研修を提供した。Lerniaの遠隔教育担当責任者のPeter Lindqvist,( Business Area Manager and Project Manager )「Open Training社には、自分達の組織内でのフレクシブル学習のコンセプトを実現するための開発導入に関する戦略的なアドバイス だけではなく、プロジェクトの仕様、優先付け、コーディネーションに関するサポートも委託している」

このように、 Open Training社の成功の秘訣は、LMSベンダーとしてのテクノロジーサービスだけではなく、LMS導入プロセスやEラーニングプロジェクト全体に関するコンサルティング・サービスを提供することを確約していることである。

II. コンテンツに関するベンダーの動き

1.ヨーロッパならではの動き

ヨーロッパのコンテンツ・プロバイダーはアメリカとはかなり異なっている。Thomson NETg社のようなアメリカの大手のベンダーがヨーロッパで利用されていることは事実であるが、それは、一部の大手の企業でのみである。ヨーロッパのコンテンツ・プロバイダーは、小さなベンダーか、大学、あるいはBBCやEditisのようなオープン・コンテンツ・パブリッシャ-である。最近の企業の傾向してはコンテンツ・ベンダーから商品を買うのではなく、社内開発の推進である。

小さなコンテンツ・ベンダー
The European eLearning Industry Group (eLIG ) のようなEUの指名団体が中心となってヨーロッパ全体におけるコンテンツ開発を推進し小さなベンダー育成に貢献している。

コンテンツ・ブローカー事業モデルの推進
EduXchangeはEU主導のプロジェクトで、ヨーロッパの大学と企業のコンテンツを交換しあうことで、ギャップを埋めることが大きな目的である。このプロジェクトには6つの知名度の高い大学と60以上の企業が参加しており、最初のステップとして大学のコンテンツを企業に共有することからスタートしている。

オープン・コンテンツを中心とした動き
ヨーロッパでは、Moodle, Sakai 、LRNのようなオープン・ソースLMSに強い関心があるが、同様にオープン・コンテンツ推進の動きも強い。現在、BBCやEditisのようなオープン・コンテンツ・パブリッシャ-とコンテンツ開発システムベンダーの間で「Eラーニング市場におけるオープンコンテンツの役割」について盛んに協議されている。

2.社内でのコンテンツ開発推進の動き

企業では特にこの動きが活発である。コンテンツベンダーから買うのではなく、社内にある知識をEラーニング化し活用するというものである。この動きの中で活躍しているベンダーとしてMOHIVE社がある。

MOHIVE社会社概要:ノルウェーのEラーニング・パブリッシング・システム会社で、イギリス、ドイツ、オランダ、オーストラリアにも進出している。

MOHIVE 社の SME用パブリッシング・システム:

2006年の2月に、新しいエンタープライズ用Eラーニング・パブリッシング・システムMohive Toolbox 3.5を発表。この新しいシステムを使うことによって、社内にいるSME(あるコンテンツにおける専門家)はEラーニングを通して知識を簡単に委譲することが可能になる。
例えば、SMEは既存のパワーポイントのプレゼンテーションを直接Eラーニングのプログラム入れ込むことができる。自動的にToolbox のフォーマットに転換されるので、他の作業ステップ、プログラムは必要としていない。SME達は Step-By-Stepのウィザードを利用したり、たくさんあるテンプレートの中から自分今いるものを選んで、Eラーニング・プログラムを作成していく。
これによりPPTなどの素材をSabaなどの一般的なLMSへ搭載可能なオンラインコンテンツに変換できる。

社内のコンテンツはパワーポイントのプレゼンテーションに入っていることが多い。これらのコンテンツを 新しい目的に変えて再利用する(repurpose)ことが効率的にできるようになる。

3.モバイル・ラーニング用コンテンツ開発推進の動き

2005年のベルリンで開催されたONLINE EDUCA BERLIN 2005のコンフェレンスではモバイル・ラーニングが大変話題になった。移動することの多い社員に対して、カスタマ化された個人用コンテンツ提供が目的である。また、ヨーロッパの場合は最低条件として多言語対応が必ず入っている。

EU主導のプロジェクトで開発されたテクノロジーとして MOBIlearn, Wearit@work、 iTutor、 eXact Mobileがあるが、これらは世界で初めての モバイル・ラーニング、ウェアラブル・トレーニング用のコンテンツ・マネージメントシステムである。この動きの中で活躍しているベンダーとしてGiunti Interactive Labs社を紹介する。

Giunti Interactive Labs社のモバイル・ラーナ-のコミュニティーを対象としたコンテンツ開発用システム:

Giunti Interactive Labs社の会社概要:LCMSとパブリッシング・マネージメント・システムのベンダーで、Giunti Labs社の新しいLearn eXact LCMS Suite (www.learnexact.com) は、個々の学習者のバックグラウンド、興味、ニーズに合わせたコンテンツが自動的にパッケージ化され、個人が必要なときに、必要なところにデリバリーできる。

このスイートには、 eXact Mobile、 eXact Portfolio、 eXact Skills等のいくつかのモジュールがあり、個人の学習コンテンツがトラッキングされ、学習の評価結果が個人のいる場所に直接に送られていくようになっている。営業マン、医療関係者、仕事で移動の多い社員等に適している。SCORM content に準拠しており、Windows Mobile? Smartphones、 Blackberry? Mailers、 Xybernaut? Pen、 Wearable Computersを使って利用できる。
 

4.まとめ

LMSもコンテンツ関連ベンダーもアメリカは「個」が中心となって動いているのに対して、ヨーロッパは、EU等の影響もあるが、推進団体としてまとまったフレームワークの中で動いているようである。このフレームワークの中で、「オープン化」の動きは、LMS、コンテンツともに進んでいくようである。同時に企業秘密、企業の知的財産的なコンテンツのEラーニング化の需要に対しては、SME用コンテンツ作成ソフトがより重要視されていくと思われる。大手のヨーロッパの企業はグローバルな流れとしてシステムの「セントラル化」を進めていくので、大手のLMS等システムベンダーはそこでの成長は見込まれるが、中小企業の多いヨーロッパでは、中小企業市場に対してどうアプローチしていくかがヨーロッパ全体のLMS市場を左右するキーのようである。

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