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第6回 「事例から学ぶ研修の評価とビジネスの成功」
ROIとビジネス戦略:IBMの事例
「2004年TOP100 IBM首位」という今年の3月のトレーニング誌の表紙を見て、まず思ったのが「IBM社がなぜ、トレーニングTOP100社の中から1位に選ばれたのであろうか?」ということである。「何が他との差をつけたのであろうか?」興味を持って読み進んでいくと、IBMが今回1位になったのには、大きく、IBM社の「企業戦略と学習との関係」についての考え方に理由があることがわかった。
それは、2002年にCEOであるパルミサノが打ち出した「IBMは、ソフトウェア、ハードウェア、サービス、研究所もパートナーとなって、顧客へ新しいテクノロジー・ソリューションを提供できる会社となる」という「オンデマンド・コンピューティング戦略」に起因する。彼は、この戦略を実行するために、2003年に新たに、「IBMをオンデマンド・ワークプレースに変身させる」ことを決めた。この決定の実行にあたり、パルミサノは自らがスポンサーとなって、「21世紀の学習モデル」をなくてはならないものとして開発を進めた。この学習モデルは、「ビジネスチャレンジを解決」、「新しい学習行動を身につける」、「学習はIBMの戦略とアライメントしている」ことがキーになっていて、 「ROIを測定することはIBM社ではオプションではない」ことが強調されている。学習は「他のビジネスの投資」と同格に位置づけされ、同様に測定されるものであるという基本スタンスで、「ビジネスの成功と研修の評価の関係」をとらえている。
1. IBMの21世紀の学習モデルとは?
1)Role of Manager@IBMプログラム
これは「マネージャーの役割の変更」を目的としたプログラムで、「21世紀のリーダーシップ」の新しいモデルとして$85Mの開発費と2年という歳月をかけ、32,000人の役員、マネージャーを対象に、全社的に展開しているものである。このようなプログラムは、創立以来、一番規模の大きいマネージメント系人材開発のイニシアティブ(試み)であるという。
2)マネージャー・ジャム・プログラム
Edvisorと呼ばれるLCMS(特許を申請中)とインテリジェントe-coachを使っているプログラムで、職務と360度フィードバックを基に、個人の学習プランを開発できるようになっている。
3)マネージャー・アクション・ネット
マネージャー達が大規模なコラボレーション用e-spaceで、ベスト・プラクティスを共有したり組織についての話し合いの中から、やるべきことを決めて行動に移したりするのに役立っているという。
4)The role of the Manager@IBM Scorecard
新しい効率的な測定方法で、ビジネス結果を測定できるという。このプログラムに参加している2,2000人のマネージャーにとって、「ビジネス結果が測定できた」ということは、去年の最も大事な「キーポイント」であったという。
2.社内の測定結果と顧客満足度
IBMは、社員のフィードバックを測定して得たデータと顧客満足度のデータを関連付けることに成功したという。数字の結果を見ると、Role of the Manager@IBMに参加したマネージャーは「社員の満足度」、「明確性」(仕事を分かりやすく部下やお客様に説明すること)、「リーダーシップ度」で大きな向上(参加しなかった事業部と比較して)がみられたという。また参加者からは、プログラムは自分達の業務に直結し価値ある学習経験となったという。
3.研修コストとビジネス結果
この開発には、外部の測定専門会社がかかわっており、開発と導入費用をあわせると$85Mがかかっているという。この時外部の専門会社は、プログラムの中の事例を作成するのに2002年11月から2003年6月の間に174のチームリーダーとのインタビューを行ったという。このように、かなりの時間とコストがかかってできあがったプログラムであるが、その結果は予想以上のものであったという。
インタビューにより作成され選ばれた50のビジネス・インパクト事例をもとにしたプログラムの中で作成されたアクションプランを実行することによりビジネスの結果に貢献し成果をあげたという。各参加者は、プログラムの結果として何百万ドルもの新しい収入、コスト削減、コスト回避につなげることができたと口をそろえて言う。2002年の後半に出された3つのアクションプランだけでも$100M以上の収入をもたらし、 2003年の第ニ四半期では9つのアクションプランが実行され、$184Mの価値が達成されたという。
バランス・スコアカードを使った測定方法:ブース・アレン・ハミルトン社の事例
1.パーフォーマンス・スコアカードの評価方法
この会社は、世界的にも知られているテクノロジー・コンサルティング会社であるが、今年のトレーニング誌のランキングで4位にあがっている。この会社の評価方法の特徴は、カークパトリック及びROIの評価だけにとどまらず、パーフォーマンス・スコアカードを利用していることである。
このパーフォーマンス・スコアカードの評価システムの特徴は、「自動警報システム」を搭載していることである。与えられたコース、あるいはコース上での個人のパーフォーマンスが指定された領域外であったりした場合に自動的にリーダーに知らせてくれたり、コースの満席、レベル毎のコンピテンシー習得についても「警報システム」が作用するようになっているという。
2.VMM(価値測定方法)
また、ブース・アレン・ハミルトン社はValue of Investment「投資の価値」を測定できる評価システムを使っている。(このような評価システムは、今後研修業界の注目を浴びることが予測できる)この新しい価値測定方法はVMMと呼ばれ、次のことができる。
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コストとベネフィットの分析
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確固としたビジネスの意思決定
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出された決定を管理し、結果を評価
VMMの特徴として、トレーニングプログラムのコスト的なリターンの測定ができるだけでなく、組織的な価値、直接的なユーザーへの価値、運営基盤的な価値、財務的な価値、戦略的ブランドとしての価値をも測定できることがあげられる。また、何を測定したいかによって、それぞれの「価値」に対し個別に重点度を指定できるので、ROIをより適切な角度で見ることが可能となり、数学的な計算による数値以上のものを得ることが可能である。例えば、やろうとしていることが、ビジネスにどのような価値を創造し、これを実行するに際してどのようなリスクがあるのかも予測できるといったようなことである。「ただし、このようなシステムは、特定の研修だけに使用するのではなく、全社的に広めようとしないと効果は出ない」とブース・アレン・ハミルトン社の研修担当者はいう。
VMMの実用例として、研修担当者側は「研修費用の払い戻しプログラムより、前払いプログラムの方が社員の留保に効果があった」という仮説を検証するために、過去10年の「授業料を払うプログラム」の投資効果分析をおこなった。実際この10年の間に「払い戻しプログラム」のときの社員の利用率は14%だったのが、「前払いプログラム」になってから28%に跳ね上がっている。プログラムに対する社員の価値観を分析し、留保率を測定することができ、仮説を検証した。ブース・アレン・ハミルトン社にとって、社員の留保率は大変重要な数値である。社員一人が会社に留保するということは会社にとって$14万ドルの収入と同等の価値があるからである。社員4000人がプログラムに参加し、3%以上の留保率があるとすると、約120人は会社に長く在職することになる。これは、$1680万ドルの収入に匹敵する数値になる。この検証結果をもとにして、今年ブース・アレン社は$1千万ドルを「授業料を払うプログラム」に投資しているという。
研修の効果を評価するシステムの現状:
上記の成功事例ではインタビュー、アンケート用紙等以外に、システムを使って研修結果を効果的に測定しているが、このような評価システムは一般的に利用されているのだろうか?
1.アナリティックス(自動評価システム)の種類アナリティックスの歴史はまだ浅く、ベンダーのもので良く知られているものとしては、ビジネス・インテリジェンス関係では2001年KnowledgeAdvisors社が出したMetrics That Matter、ビジネス・パーフォーマンス関係では2002年10月にドーセント社が出したドーセント・アナリティックス、人材開発関係で知られているサバ社のサバ・アナリティックス、ピープルソフト社、ビジネス・オブジェクト社の従業員に関する測定システムがある。
2.アナリティックスの成長、発展が遅い理由
eラーニングの成長スピードと比較するとアナリティックスの成長はかなり遅い。その理由としては、研修以外のところ(セールス、収益等を管理する他のソフトウェア)からデータを集め、そのデータと研修を関連づけて研修の価値について自動的に分析する必要があり、これは思っている以上に手間がかかり時間的にも、技術面でも難しいからであるという。
IDCの学習・サービス・リサーチのプログラム・ディレクターであるクッシング・アンダーソンによると、長年、研修の成果を財務的な数字で測定し、分析しようと手がけている会社でさえも、満足いくような使い方ができるにはいたっていないという。優れたアナリスティクスのプログラムには、次の4つの機能が必要である。
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学習者のデータのトラッキング
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そのトラッキングしたデータを分析
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可能な将来の行動をモデリング
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行動に移していくことのできるようなフォーマット形式で、情報を提示する
現在のアナリティックスを使って、出席者、参加者の予測、スコア、事前テスト、事後テスト、ギャップ分析のようなものは研修結果として測定可能である。しかし、難しいのは、このデータを他の分野に関連づけて分析し価値について評価することである。対象が誰で、何が対象で、得たデータがクリーン(真実性と信頼性がある)であるかどうか、そのデータに対して偏った考え方をしていないかどうか等について確認しておく必要がある。多くの企業では、財務的なデータそのものが大事な決定を下すのに充分に「クリーン」であるかどうかさえも疑問を感じているという。
3.レポーティング機能について
ほとんどのLMSにすでに存在している研修結果のレポーティング・ツールがとは別にアナリティックスのプログラムを、企業はなぜ利用しているのであろうか?例えば、LMSを使って評価分析をやろうとすると、このLMSのデータベースの動きはおそくなってしまい、質問の内容が高度であればあるほど、スピードはおそくなる。これは、LMS用のデータベースは分析用のデータベースとは異なっているからであり、分析用の新しいデータベースの必要性がでてくる。これはOLAP(OnLine Analytical Process)と呼ばれ、これを使うことによってより高度な分析が高速で可能になるからである。
4.アナリティックスのシステムを選ぶときの大事な点
海軍のバーチャルラーニングサイトにある「eラーニングの効果測定に使う 意思決定モデル」によると、アナリスティクスを選ぶときのステップとして次のものがあるという。
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ビジネスの目的は何(測定プランを立てる前に決めておく)
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どのような方法で、どんなツールを使って評価をするのか
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ステークホルダー(重要な利害関連者)は誰で、これらの人達は何を知りたいのか
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どのフレームワークが自分達にとってベストか
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何を測定すべきか
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どのようにデータを集め、どのように集めたデータを分析するのか
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測定結果は自分達に何を示し、その結果として、どのように「チェンジ」していくべきか
今回のレポートでは、実際の企業の成功事例を通して、研修の評価の利用方法と、利用されている評価システムの現状について触れてみた。次回は、カークパトリックを越えた新しい評価方法に焦点をあててレポートしてみたい。
参考資料
- Sam Adkinsが書いた「新しい学習:"Just-in-time" is too late」 (2003年6月レポート)
- Training plus Development (2003年10月号)、"SimsSimsSims" by Paul Harris
- Training誌(2003年、7月、8月、9月、11月号、12月号)
- "Simulation in the Enterprise" by Internet Time Group
- "Simulation bringing e-learning to a new level" by Phil Davies, July 2003
- Information Week, Dec 15, 2003
- American Laboratory, September 2003
- "Future of eLearning", by Paul English of Futuremedia Plc.
- "Simulation in the Enterprise" Centrifugal Force: The Race for eLearning in the Real-time Extened Enterprise,
www.internettime.com/store/SEIinfo.htm
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