米国スタンフォード大学に留学した佐々木 大氏による連載です。

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佐々木 大 (ささき ひろし)
略歴

青山学院大卒。
元ザ・プリンストン・レビュー・オブ・ジャパン(現アゴス・ジャパン)
代表取締役社長。その後、同社関連会社でe-Learningに特化したセレゴ・ジャパンにてセールス&マーケティングを担当。
e-Learningの可能性を最大限に追求してみたく、現在、米国スタンフォード大学のLearning Design & Technology という教育学修士課程に留学中。
趣味はマンガ、競馬、酒、カラオケ、ラーメン食べ歩きという超典型的なジャパニーズサラリーマンだったため、現在米国にて生活環境のギャップに苦戦中。

<第1回>

米国のeラーニング最新情報を発信する「米国eラーニング便り」がスタートしました。

今回より、毎月1回のペースでスタンフォード大学留学中のeLC広報委員「佐々木 大」がお伝えします。

皆さん、初めまして!実は留学中といっても、まだ日が浅く、本当の勝負はこれからなのです!ですので、まだ皆さんにとって本当にお役に立てる情報をご提供 できるのか不安だらけなのですが、私が今後、学んでいくことや、こちらの様子などを学生の目線でお伝えして行ければと思っています。

ということで、第一回目は、まずは簡単な自己紹介を。私は、そもそも教育関連の会社に約16年間勤務しており、マーケティングや商品開発を担当してきまし た。その中でもテクノロジーを使った教育教材開発に大きな魅力を感じ、試行錯誤を重ねましたが、いささか行き詰まりも感じていました。

というのも、私が在籍していた留学希望者を対象にした準備校では、通学授業とともに、e-Learning教材も提供していたのですが、時間に制約の多い 社会人学生が大多数であるにも関わらず、結局ほとんどが通学授業を選択し、e-Learningを同様に選んでもらう状況には至りませんでした。

そこで私なりに行きついた結論は、まず一つがインストラクショナルデザインの重要性です。今回、私が40代前半で留学という英断を下してまで追及したいと 思ったのは、いかにして最良のコンテンツを最新のテクノロジーにマッチングさせ、効果的なソリューションとして提供できるかという部分でした。
テクノロジーについては、時代の流れとともに次々と新しい技術が生み出されていますが、それをうまく適合させなければ、どんなすばらしい技術も教育の現場では生きてきません。

また、学習者のモチベーションについても、成果を出させるため、必ず最後までやりきらせるという点において強く意識しています。E-Learningは自 己学習のスタイルものが多く、学習意欲の持続が容易ではありません。SNSなど、学習者同士のコミュニティの学習環境への適用も私のテーマのひとつとして 考えています。

<第2回>

皆さんこんにちは。

9月から大学院の授業も本格的に始まり、様々な刺激とプレッシャーを感じ始めている今日この頃です。日本でも、熊本大学や青山学院大学のように、eラーニ ングプロフェッショナルの育成に力が注がれ始めてきていますが、今回は、アメリカの大学の状況をちょっとお伝えしたいと思います。

私自身が選んだのは、スタンフォード大学のLearning, Design & Technology(http://www.stanford.edu/dept/SUSE/ldt/) という一年で修士号が取れるプログラムです。アメリカの大学院レベルでは、教育とテクノロジーを融合させたスペシャリスト育成のプログラムは大変充実して います。有名どころでは、ハーバード大学の、Technology, Innovation, Education (http://www.gse.harvard.edu/academics/masters/tie/)や、ノースウエスタン大学のLearning Science (http://www.sesp.northwestern.edu/lsma/) などがあり、いずれも1年間の修士課程です。通常、アメリカの大学院は2年間というのが通例ですが、上記に挙げたように1年間で修士が取れる大学も少なくありません。やはり、実務経験を積んだ学生にキャリアブランクを作らせないための配慮もあるのでしょうか。

また、これらのプログラムに共通して言えるのは、学生達の多様性です。教育学部ではありますが、私のような教育業界よりも、むしろそれ以外のバックグラウ ンドを持つ人のほうが多いように見えます。特に、今までやってきたテクノロジーの知識や経験を、今度は教育の現場で生かしてみたいというIT業界の経験者 が多いようです。結果的に、卒業後の進路もApple、Googleと言った大
手IT企業を始め、教育研究機関から民間企業まで、その業種も多彩です。各企業の人材育成担当は、より効率的かつ効果の出るプランを常に追い求めているわ けですから、このような「教育とテクノロジー」のスペシャリストの引き合いが多いのもうなずけます。

次回は、実際にどんな授業なのかについてご紹介してみたいと思います。

<第3回>

こんにちは。佐々木大です!

ところで皆さんは、アメリカのフェイスブック(www.facebook.com)というサイトをご存じですか? 実は、このフェイスブックを教育に活用しよう、という動きが見え始めてきたので今回題材として取り上げてみました。

フェイスブックを存じない方は、日本のmixiのようなソーシャルネットワーキングサイトを想像していただければわかりやすいかもしれません。全米最大のmyspace.comには規模的にまだ及びませんが、このフェイスブックの最近の成長ぶりには目を見張るものがあります。

元々は、ハーバード大学の学生が自分たちのネットワーキング用に開発したのがきっかけのようですが、それが全米の大学や高校に飛び火し、今や学生間コミュニケーションの必須アイテムになった感じです。これまでは、学校ドメインのメールアドレスでなければ参加できない仕組みでしたが、昨年一般に開放されたことにより勢いは加速し、海外にもユーザーを拡大しています。

なぜ、フェイスブックがこれだけ注目を集めているのでしょうか。
理由は、フェイスブック上で利用できるアプリケーションの開発ツールが一般に開放されていることにあると思います。そうです。開発者たちがこぞってアプリを作成し、次々と魅力的なアプリがフェイスブック上で公開されているのです。

実は、スタンフォード大学にも、このフェイスブック用のアプリを授業内で作ってしまおう、というユニークなクラスがあります。このクラスは、「テクノロジーがどのように人間を説得できるか」の研究で有名なBJフォッグ博士によって指導されていますが、彼は、この分野で今年最大の注目はフェイスブックである、と言いきっています。

フェイスブックに限りませんが、これらSNSには、人と人を結びつけるコミュニティという特性から、人をやみつきにしてしまう何かがあります。私自身も常々考えていましたが、このコミュニティ環境を教育に生かすという考え方は、大変理にかなっていると思っています。事実、このフェイスブックアプリ作成クラスでも、「教育に活用できるアプリを開発せよ」という課題が出ているくらいですから。

今後、次々と教育に役立つアプリケーションが、フェイスブック上に登場してくることが期待されます。ご興味ある方は、ぜひフェイスブック用のeラーニングアプリを開発されてみてはいかがですか? (^^ 

<第4回>

こんにちは。佐々木大です!

今回は、eラーニングプロダクトの開発においても役立つ、教育心理学についてちょっと触れてみたいと思います。専門的に取り組まれている方にとっては、何を今さらという内容かもしれませんが、重要性を再認識する意味でお付き合いいただければ幸いです。

私の所属しているLearning Design & Technologyというプログラムは、どちらかと言えば実践に即したカリキュラムだったはずですが、実はこの教育心理学をみっちり叩き込まれるところから始まりました。
この授業では、読まされる文献の量が半端でないのと、内容がまわりくどく一筋縄では理解できないため、アメリカ人学生も悲鳴をあげている位ですから、英語力不足の留学生の立場としては、苦痛以外の何者でもありませんでした。

ところが、内容を掘り下げていくにつれ、なるほどと感じる機会が増えてきたことに気付き始めたのです。要は、人間が何に興味関心を示し、どのように理解を重ねていくのか。それをどうすれば効果的に指導できるのかを常に学習者の立場で考えろ、という極めて当たり前の話なのですが・・・。
クラスでは、この至極当たり前の理論を徹底的に議論し、教育現場で活かされている具体例を授業内でプレゼンすることが全員に要求されています。
つまり、教師でなくとも、eラーニングを始め、教育教材開発に携わる者はすべてこの本質を見極めよ、ということなのでしょうね。

数多くのeラーニング教材が失敗しているのも、本来は当たり前に考えなければならない根本的な理論、特にLearner-Centered(学習者中心)の精神を怠っているからなのでは、とつくづく実感しました。テクノロジーは時代とともに進化しますが、このような教育の真髄は、いつの時代になっても変わることのない真理ですからね。
最新のテクノロジーこそがeラーニングに改革をもたらすと勝手に信じ込んでいた私にとって、ある意味で耳の痛い、教育の原点を再認識するきっかけとなりました。

もちろん、理論と現実は違います。理論を学んだからと言って、最強のeラーニング教材が開発できるわけではありませんが、その理論をわかった上で判断することは、やはり意義のあることだと思います。学習者は何を考え、どのようなモチベーションで学習をするのでしょう。

絶えず学習者の視点で考えること。この当たり前の論理こそが、すべてのeラーニング関係者に課されている永遠のテーマではないでしょうか。 

<第5回>

こんにちは。佐々木大です!

さて、皆さんお馴染みのYoutubeをはじめとする動画投稿サイトですが、学習目的で利用されるケースが目立ってきているように感じます。今回は、動画投稿サイトにおけるeラーニング利用の可能性についてちょっと触れてみたいと思います。

皆さんご存知のとおり、この種のサイトは誰でも自由に動画を投稿できることで知られていますが、その中に、How to ~(日本的に言えばノウハウもの)というタイトルの投稿が増えてきました。趣味の領域では、クッキング、ビリヤード、ダイエットトレーニングなど。さらにビジネスの世界では、効果的な交渉のまとめ方など、ジャンルが多岐にわたっているのもさることながら、内容的にも大変興味深い投稿が目白押しです。

これまでは、eラーニングにおいても専門的な「教育者」が指導にあたるのが当たり前の概念でしたが、近年のWeb2.0の世界では、ある得意分野を持った個人ユーザーが、ネットを通じ、いとも簡単に指導者という立場を名乗れるようになりました。そこには、何か教えるための資格を持っているとか、指導者としての教育を受けたなどの経験は一切求められません。また、その分野で有名な人物である必要もありません。自分にちょっとの自信さえあれば、教える側に立てるという状況が生まれています。例えば、www.5min.com は、この「誰しもが何か得意なものがある」というコンセプトのもと誕生したノウハウもの専門の動画投稿サイトです。興味のある方はぜひご覧になってみてください!

現状を見ると、この「即席指導者」は今後益々増えていくことが予想されますが、これらの内容は、果たして学習者にとって本当に役に立つものなのでしょうか・・・?もちろん、すべてのコンテンツにおいてそうだとは言い切れませんが、全般的に言えば、私はイエスだと思っています。

その理由はいくつかありますが、投稿されている内容が、ある意味非常にマニアックであることもその一つです。専門的な「教育者」には思いつかないような自由な発想で満ち溢れ、実際の教育現場では手間がかかってやりきれないだろうと思われるものも多く見受けられます。以前アメリカで、メントスキャンディをダイエットコークに入れると、ドリンクが過剰に反応して泡が噴き出す様子を収めた動画が投稿サイトで大変注目を集めました。このビデオはどちらかと言えばお遊び系として注目されましたが、本当にそうなるのだと納得させる「百聞は一見に如かず」の威力は、eラーニング上での効果は抜群と言えるでしょう。但し、中には著作権を無視、公序良俗に反する内容がないわけではありませんので、教育コンテンツとして利用する場合はくれぐれもご注意を。

<第6回>

皆さんこんにちは。佐々木です。

さて、今回は「eラーニングと社会貢献」をテーマにして、ちょっとお話してみたいと思います。

アメリカの大学に来ると、ボランティア活動をはじめとする、学生たちの社会貢献への意識がとても高いことに驚かされます。そのテーマに基づいたクラスも数多くありますし、それ以外のクラスでも「社会に貢献できる」という前提でプロジェクトを与えられる機会が少なくありません。そんな中、私も、eラーニングはまさに社会に貢献できる素晴らしい手段の一つだと信じて学業に取り組んでいるわけですが・・・(^^

ところで「OLPC」という言葉は皆さんご存知でしょうか。ご存知ない方のためにお伝えしておきますと、One Laptop per Childの略で、世界中の子供たち一人一人にラップトップコンピューターを持たせて教育に役立てようという、マサチューセッツ工科大のネグロポンテ教授によって始まったプロジェクトのことです。既に試験的に発展途上国への供給が行われています。将来的には100ドルという低価格ラップトップを実現して拡大を図る構想でしたが、100ドルの壁は厚く、昨年11月には、399ドルで二台分を購入すると一台が入手でき、もう一台が自動的に途上国に寄付されるという「Give One Get Oneプログラム」が開始されました。大変素晴らしいプロジェクトではありますが、ここに来て不安要素も見え始めているようです。

1)盗難等でエンドユーザーになかなか行き渡らない。
2)OLPCプロジェクトの一員だったインテルが撤退。
3)寄与されてもネット等のインフラにコストがかかってしまう。
4)使用方法等の指導が徹底されていない。
5)生産が追いついていないなど。

一方、スタンフォード大教育学部でインフォメーションテクノロジーのアソシエイトディーンを務めるポール・キム氏はOLPCの構想は評価しながらも、パソコンではなく、もっとシンプルなモバイルデバイスであるべきと言い切って独自のプロジェクトを推進しています。彼の主張は、発展途上国ではコンピュータなど見たこともない子供たちばかり。そんな子供たちが説明を聞かずとも手にとってすぐに使い始められるようにボタンはできるだけ少なく、ポケットサイズで落としても壊れない耐久性、価格帯も100ドルと言わず30ドル程度で、となるほど筋が通っています。

技術の進歩により、PCやモバイル機器の低価格化、小型化、高速化は進む一方ですが、まだまだ発展途上国への還元は長い道のりです。発展途上国には、一時的な援助ではなく、彼らが自立していけるための「教育」が必要です。いかなる形であれ、テクノロジーを利用した教育伝達、すなわちeラーニングは、必ず彼らの力になれると信じています。eラーニングに携わる我々にとって、世界で「教育」を欲している彼らに対してどのような貢献ができるか考えることも大変重要なテーマの一つなのだと思っています。

<第7回>

皆さん、こんにちは。

先日、サンフランシスコで「Web2.0 & Collaborative Technologies in Education」というタイトルのイベントに参加してきましたので、今日はちょっとそのお話をしてみたいと思います。このイベントは学校教師をはじめとする教育者関係者が対象で、主催者によると、このタイトルで開催するのは初めての試みらしく、かなり実験的な要素を含んだイベントとのことでした。事実、参加申し込みの段階で、セミナータイトルを見て自分で講義してみたいものがあったら事前に言ってください、などという柔軟さでしたので。とりあえず初めてなので、多分ビギナーレベル向けの内容になりそうとのことだったのですが、参加してみて、正直なところここまで初歩的な内容とは想像していませんでした。確かに参加者を見渡してみると、確かにちょっと年配の方が多かったような気もしますが・・・。

主なセミナータイトルの一例をあげると、

・Web2.0とは?
・実際にスカイプやtwitterを使ってみる
・教育現場におけるWikiの活用
・フェイスブックを始めとするソーシャルネットワーキングサイトの活用事例

などです。参加者から出てくるコメントは、「フェイスブックを使ったことがない」「ソーシャルブックマークって何者?」などで、「生徒たちから聞いたことがあるが、実はよくわかっていない」という教師たちが意外に多いことに新鮮な驚きを感じました。私も、話で聞いてはいましたが、デジタル世代の学生たちと教育者の間にある技術や情報の格差、いわゆる「デジタル・デバイド」が、アメリカにも確実に存在していることを目の当たりにした瞬間でした。

Pew Internet & American Life Projectの調査によると、アメリカにおける12~17歳の子供たちのインターネット利用率が73%(2000年)から87%(2005年)に上昇したのに対して、大人の利用率は56%(2000年)から66%(2005年)であったとしています。このような情報格差は、拡がる一方かもしれません。子供たちは、物心をついたころからコンピュータが身の回りにあるいわゆる「デジタル世代」です。確かに教師たちは必死にならざるを得ません。これは米国も日本も同じ状況なのだと思います。

そんな教師たちをサポートすべく、様々な教育団体がウエブサイトを立ち上げたり、サポート教材を作ったりと学習機会を提供していますが、付け焼刃的な知識習得では、子供たちとのギャップがそう簡単に埋まるとは思えません。むしろ「怖さ」さえ感じている教師たちを見ていて、まずは自分の好きなことから始めて、生徒たちと一緒に自分自身も楽むというくらいリラックスして取り組んだらいいのに、と思わずにはいられませんでした。

<第8回>

皆さんこんにちは。佐々木です。

さて、前回の号では、テクノロジーに対して不安を募らせているアメリカの教育者について触れました。Web2.0テクノロジーが教育にもたらすメリットは、 誰もが信じているところだと思いますが、実際のところ、アメリカの教育者た ちにはどのように受け止められているのでしょうか。テクノロジーと教育につ いての情報を提供しているtechLEARNING.comというサイトが、定期的にK-12 (幼稚園から高校まで)の教育関係者向けにアンケート調査を実施しています。
去年から今年にかけて、なかなか興味深い数字が出ていましたので、今回はそ のデータをちょっとご紹介してみたいと思います。

教育目的でのブログ活用は、理解を深めたりするのに役立ちますか、の問いに は、ノイズが多すぎるのでノーと39.3%もの人が答えています。多分役立つ可 能性はあるが難しいという答えが35.7%と続いていますので、ブログについては否定的な見方をしている人が多いことが伺えます。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も生徒たちにとって人気の高いサービスですが、反面、ネットでの「いじめ」を始め、問題発生の危険性も少なくありません。これに対し、あなたの学校ではどう対応していますか?の問いに、69.2%が「アクセスできないようにブロックしている」と答えています。ブロックはせずきちんと危険性を教育していると答えた15.4%とは比べ物になりません。まだ対応策がしっかりできていないというのが実情のようです。

一方、18歳未満のSNSの利用を法で規制するというアイディアは、生徒たちを問題発生の危険から遠ざける効果的な策だと思うか、の問いには7割以上がノーと答えていますので、やはり活用の方法次第では効果的なツールであると思われているようです。

今後、教育目的での利用が大いに期待されているセカンドライフについては、利用したことがあると過半数が答えているのに対し、まったく聞いたことがないという答えも33%を占めていますので、まだ誰もが知っているサービスにはなっていないようです。

アメリカの教育関係者たちも、これらのサービスを効果的に教育現場に活用してくためには、理解を一層深める、生徒向けのガイドラインを設定する、などまだまだ努力すべきことは多そうです。

<第9回>

皆さんこんにちは。佐々木です。

先日、サンフランシスコで行われた「Web2.0 EXPO」に参加してきましたので、今回はそのご報告とイベントを通じて感じたことをちょっとお話してみたいと思います。

このイベントは結構有名なので、ご存知の方も多いことと思いますが、正直なところ、Web2.0という言葉自体、なんだか陳腐化してきて、以前のような勢いは感じられなくなってきている気がします。
私自身もWeb2.0テクノロジーは、教育(特にeラーニング)分野で大いに活用できると注目をしていましたが、私の大学内でもWeb2.0の話になると、議論が同じことの繰り返しになり、そこからなかなか抜け出せないでいるような印象を持ち始めています・・・。

さて、実際のイベントですが、やはり講演を聞いても、エキスポ会場を回ってみても、どれもどこかで聞いたことのあるような話ばかりで、新鮮さが感じられなかったというのが率直な印象です。

私自身は、教育というテーマで会場を回っていましたが、その中で、ちょっとだけ目を引いたのが「インストラクタブルズ(http://k.d.combzmail.jp/t/lp4y/70o9bex0bdhv9jcqa8)」というサービス。SNSをベースにして、知識を教え合うサイトというので、ブースに立ち寄ってみたのですが、結局は自分が教えたいことをユーチューブなどにアップしてリンクをはってコメントをつけて、というサービスの様子。ちょっと前ならみんな面白がってとびついたのかもしれませんが、さすがにSNSがこれだけ普及した今では、新鮮さが感じられません・・・。もちろんコンセプトそのものは素晴らしいと思うのですが、やはりWeb2.0については全体的に食傷気味になっているのかもしれません。

会場のブースを回っていて感じたのですが、ベンチャー企業の出展者たちは当然のことながら熱気で満ち溢れています。「俺たちの技術はすごいだろう!」と言わんばかりの勢いで迫ってきます。でも、それでユーザーにはどんなメリットがあるの?本当に彼らが欲しいと思っているの?と思わず聞き返したくなることがあります。出展者たちの最新技術やアイディアは実際に素晴らしいものだと思います。でも利用者の対象や目的が噛み合ってなければ、無用の長物にもなりかねません。Web2.0であろうとなかろうと、ユーザー要求にマッチしたものは確実に残りますし、どんな素晴らしい技術であろうと、ユーザー需要に沿っていないものは、存続していくことはないでしょう。商品開発の出発点は、やはりユーザー(我々の世界に当てはめれば学習者)ありきで「技術」はあくまでも利用を便利にするためのツールである、という当たり前の概念を再認識する必要があると、イベントを通じて強く感じました。Web2.0のコンセプトは大変素晴らしいものですが、決してそれがすべてを解決してくれる万能ツールではありません・・・。

<第10回>

皆さんこんにちは。佐々木です。

先日、私の所属しているスタンフォード大学のLearning Design & Technologyというプログラムが主催で、ベイエリアのK-12(幼稚園から高校まで)の教師たちを招き、「K-12 Workshop」というイベントを開催しました。

以前にもお伝えしたかと思いますが、アメリカでも多くのK-12の教師たちが、テクノロジーを活用した教育ソリューションに大変強い関心を寄せています。
入手した情報はすぐに現場で活用してみたいという思いも強いようで、今回のイベントでも、実際に成果をあげている成功事例に彼らの関心が集中しているのが印象的でした。

このイベントでは、クラスメートたちがそれぞれテーマを設定し、各グループに分かれてセミナーを開いたりブースを設置したりしたのですが、私のグループは、教育での活用が大いに期待されるNintendo DSを取り上げてみました。
以前に、eラーニングに造詣の深い中嶋航一教授(帝塚山大学)も、DSはデュアルスクリーンというその特性から、黒板とノートという教室環境を至る場所で実践できる最強のラーニングツールである、という話をされていましたが、まったく私も同感で、今後の教育現場での活用に期待を高めていました。

日本でも英語の授業でDSを活用する学校が出てきた話題は皆さんもご存知かと思いますが、海外でも算数の授業で活用されている例があります。
http://k.d.combzmail.jp/t/lp4y/70tmbrx0bd42jyz0rdまた、アメリカの大手プレップスクールであるKaplanが、SAT(アメリカの大学進学適正試験)対策のための学習ゲームをDS用に販売開始するというニュースも先日発表されました。

ということで、日本が誇るこの最強ラーニングツールをアピールしない手はない、とばかりに意気込んでイベントに臨んだのですが、参加者の反応は残念ながら今ひとつでした。まずは彼らにとって、DSというプラットフォームはあくまでも遊び用のゲーム機という固定概念が完全に定着してしまっているようです。また、今回痛切したのが、書いて学習するというスタイルは、アメリカではあまりアピールポイントにはならないということです。日本でベストセラーになっているDSの教育ソフトウエアを見ると、タッチペンを効果的に学習に利用している商品が多いことに気づきます。英語や漢字学習などでも、書いて学習するという商品が多いですし、私もそこがDSの最大の魅力だと信じています。
アメリカでも数多くの語学学習用DSソフトが発売されていますが、タッチペンは、選択肢を選ぶなどの目的で利用され、せっかくの文字を書いて学習するというメリットがほとんど活かされていない事実を再認識しました。やはり文字に対する文化の違いなのでしょう・・・。当たり前の話なのですが、国や文化によってのテクノロジー導入のギャップは想像以上に大きいことを改めて実感
しました。

<第11回>

皆さんこんにちは。スタンフォード大の佐々木です。先日、大学の卒業式がありました。私の所属しているプログラムはちょっとイレギュラーで本当の卒業はもう少し先(8月)なのですが、式は年に一度(6月)にしか行われないため、ここに参加して仮の卒業証書を授与されました。今年の卒業式のゲストスピーカーは、アメリカでは超有名な女性実業家兼テレビタレントのOprah infrey氏。
ストレートで力強い彼女のメッセージに、卒業式会場となったスタンフォードスタジアム(収容人数5万人)は大変な盛り上がり!貴重な体験でしたが、正直なところ、まだまだやることいっぱいの私としては、残念ながら心からの喜びを感じることはできませんでした・・・(泣)。ということで、本当の卒業(笑)まであとわずか、ラストスパートがんばりたいと思います!

最近、学習におけるモチベーションについて考えさせられる機会が多々あります。対面レッスンに比べ、eラーニングにおける学習者のモチベーション維持の難しさがよくクローズアップされますが、この記事を読まれている皆さんにとっても、避けては通れない重要なテーマの一つだと思います。

実際のところ、対面レッスンの優位性とは何でしょう。物理的にレッスンを受ける行為により、否応なしに勉強する環境を作れる。故に学習目標達成がしやすい。目の前の講師と、すぐさまインタラクティブなやりとりをすることができる、などそのメリットは少なくありません。しかしながら今の時代、リアルタイムの遠隔テレビ授業なども可能ですから、単純に考えれば対面レッスンと同じ環境を作り出すことは決して難しい話ではありませんが・・・やはりその違いは顕著です。大変極端な例ですが、先日、私はスカイプテレビ電話にて、日本にいる知人と画面を通してお酒を一緒に飲むという実験をしてみました。
会話のみならず、相手の表情や着ている服も見られますし、お互いが飲んでいるもの、食べているものもすべて見せ合えます。確かにそこそこ盛り上がったのですが、正直またやろうという気にはなりませんでした・・・ そこに欠けていたのは何だったのでしょうか。相手のおつまみの匂い、まわりのざわめき、体感気温の共有など・・・たぶん、それらすべてを含むライブ感だったのだと思います。例えばスポーツ観戦はテレビでも楽しめますが、やはり会場まで足を運ぶのとでは興奮度が違いますよね。このライブ感こそ、私たちを興奮させる重要な要素の一つでしょう。なぜこのような話を持ち出したかと言うと、このライブ感を遠隔教育上でできる限り実践しようと、現在、大学のプロジェクトで「セカンドライフ」を使った学習システムに取り組んでいます。「リアル」に近いはずのヴァーチャルな世界ですが、正直なところ、その環境での学習に私自身が「興奮」を感じることができていません。学習者のモチベーションアップのために、なんとかこの「興奮」を作り出したいのですが、私が興奮できていないだけなのでしょうか・・・。もしかしたらもっと若いゲーム世代の学習者は、ヴァーチャル世界だけでも興奮して学習を進めることができるのでしょうか・・・。悩みは続きます・・・。

<第12回>

皆さんこんにちは。スタンフォード大学の佐々木です。
私の在籍している教育大学院のプログラムLearning, Design & Technology(LDT)もいよいよ今月で終了、今のところ無事卒業を迎えられそうです。ということで、今回は一年間の大学院生活をまとめて振り 返ってみたいと思います。

このLDTプログラムは、デザインやテクノロジーをいかに教育に活用できるかを主眼としています。その意味では皆さんと同様、eラーニングに興味のあった 私にとってはまさに打ってつけの内容であったと思います。しかしながら、やはり教育大学院ということもあり、徹底的に叩き込まれたのは、学習者の学ぶ過 程、モチベーション、効果測定など、教育の本質といった部分でした。これは以前にもお伝えしたことがありますが、その本質部分を理解していなければ、どん なに素晴らしいデザインや最新のテクノロジーを駆使しても、効果的なeラーニングプロダクトは成り立たないということにつながります。見方を変えれば、こ の本質を徹底的に理解した上であれば、デザインやテクノロジーは2倍にも3倍にもその効果を発揮することができる可能性を秘めていると言えるでしょう。

私は日本では留学前、eラーニング教材を提供する業務に携わってきました。
インターネットの普及に伴い、学習にも有効活用できそうな新しい技術が次々と生み出され、現在も尚、開発側にとっては大変刺激的な時代であると思います。 事実、魅力あるeラーニングプロダクトもたくさん開発されていますが、厳しい見方をすれば、教育の本質(学習者の視点)よりも技術先行になっている感は否 めません。今思えば、私自身も技術先行の気持ちになっていた気がし
ます。

教育の本質が重要なんて、改めて言うまでもなく、当たり前の話です。でも、私はこんな当たり前の事実を再認識するために高額の投資をして勉強をしてきたこ とになります。LDTの学費は一年間で約4万米ドル。現在のレートでざっと440万円です。スタンフォードの学費は高額で、半端ではない投資額ですが、そ れはそれで十分に価値のある投資だったと思っています。私がすべての本質を理解できているとはもちろん思いませんが、少なくとも理解しようという過程の中 で、読んだ文献、行った実験・プレゼンテーション、他国にまたがる学生間とのディスカッションなど、その行為自体が、今後の自分の考え方の基本になってい くだろうと実感できるからにほかなりません。これは日本で仕事を続けながらでは、私には決して得られなかった貴重な体験であったと確信して
います。

この連載記事も今回が最後となりました。
去年9月の開始以来、こうしてみるとあっという間の一年でしたが、英語力という壁もあり、学期中は辛いこともたくさんありました。でも、この連載を続ける ことが、自分にとっての張り合いになったことは紛れもない事実です。私は卒業後は日本に戻りますが、今後もeラーニングの普及には貢献していきたいと強く 思っています。どこかで皆さんともお会いできる機会があることを楽
しみにしております。

一年間ありがとうございました。
私へのコンタクトは以下までお願いします。

hsasaki@stanfordalumni.org

(eLC広報委員会:佐々木 大(スタンフォード大学))

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